家賃収入を独り占めされている
アパートの家賃収入は、各共有者それぞれに振り込みがあるのではなく、一括して誰かの口座(または管理会社)に振り込まれ、経費等もそこから支出するのが通常です。
そうしないと、経理が面倒になりますし、部屋の借主が家賃を複数口座に分けて振り込むなんて聞いたこともないですよね。
ですから、家賃収入が共有者の一人に集まること自体は問題となりませんが、各共有者の持分に応じて、家賃収入は分配されなければなりません。
不当利得の返還請求ができる
家賃収入の独占は、独占している人が受け取るべき持分相当額を超えて、他の共有者の持分による利益まで不当に得ている状態です。
そこで、民法第703条を根拠に、他の共有者から家賃収入を独占している共有者に対して、不当利得の返還を請求できます。
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。引用元:民法第703条
例えば、月の家賃収入合計が50万円、自分の共有持分が1/2なら、25万円を請求できることになります。
ただし、アパートでは入居状況で毎月の家賃収入合計が変わるのと、入居者の滞納によっても変わりますので、正しく請求額を積み上げていくことが難しいかもしれません。
請求額を正しく計算するためには、家賃が振り込まれている口座情報を必要としますが、相手が拒否する可能性もありますし、弁護士への相談を視野に入れるべきでしょう。
なお、不当利得の返還請求には時効があり、「請求できることを知ってから5年間」または「請求できる時から10年間」となっています。したがって、最長で10年前までさかのぼることができます。
また、自分が維持管理費の負担をしてこなかった場合は、その負担分を支払われた家賃収入と相殺できますが、所得が20万円を超えると確定申告が必要です。
アパートの一室に共有者が無償で住んでいる
いくらオーナーの一人だからといって、他の共有者の同意なしに、アパートの一室を無償で使う権利は当然ありません。
その部屋は、貸せば家賃を得られるのですから、不動産全体としては損失ですよね。
したがって、家賃収入を独り占めされている場合と同様の考えで、他の共有者からその部屋の家賃に対する持分相当額を不当利得として返還請求できます。
ただし、一室に住んでいる共有者が、大家として住んでいるのであれば他の入居者への対応も考えられますし、大家として住んでいなくても、修繕等の必要性を早期に発見できるメリットは少なからずあるのではないでしょうか。
ですから、一種の管理委託料だと思って、無償で住むこと(使用貸借)を認めても、それほど実害のないケースだと言えます。
本来は、家賃が発生することを前提に、部屋を使っている共有者と合意しておくことが大切です。
共有名義トラブルが起きている場合でも専門の不動産買取業者に依頼すれば、自身の共有持分のみで高額で買い取ってくれる可能性があります。以下のボタンから金額を知ることが出来ますので気軽に相談してみましょう。
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維持管理費を負担してくれない
固定資産税や修繕費などの維持管理費については、共有者の持分に応じて負担することが民法で定められています。
(共有物に関する負担)
第二百五十三条 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。引用元:民法第253条第1項
そのため、維持管理費を肩代わりした共有者から維持管理費を負担しない共有者に対して、支払いを請求することは可能ですし、請求しても支払わない場合は、最終的に訴訟などの裁判所手続を経由することで、強制執行も可能です。
支払い等の債務を債務者の財産から強制的に回収すること。典型例は預金口座の差押え。
ただし、強制執行までして取り立てるのは、その後の共有関係の維持が決定的に難しくなってしまうことを避けられません。
大ごとにはせず、未払いの維持管理費は、将来の家賃収入と少しずつ相殺するなど、合意できそうな提案で解決方法を探すべきでしょう。
なお、勘違いしやすい点として、固定資産税においては、地方税法の規定により共有者全員が連帯して納付する義務を負います。
第十条の二 共有物、共同使用物、共同事業、共同事業により生じた物件又は共同行為に対する地方団体の徴収金は、納税者が連帯して納付する義務を負う。
引用元:地方税法第10条の2第1項
いわゆる連帯債務ですから、固定資産税は各共有者の持分に応じた納税義務ではなく、固定資産税全額の納税義務であることに注意してください。
実際には、納付書の送付先である代表者が一旦は全額納付して、他の共有者へ持分相当の求償(請求)をすることで、各共有者は持分に応じた負担となるのですが、市町村への納税義務は、共有者全員が全額の責任を負っているということです。
滞納が1年を超えたら持分買取権もある
先ほど紹介した民法第253条には第2項も定められており、共有者が1年を超えて維持管理費を支払わないときは、他の共有者から持分を強制的に買い取ることが可能です。
2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
引用元:民法第253条第2項
条文中、「前項の義務」とは維持管理費を持分に応じて負担する義務、「相当の償金」とは持分に相当する金額と考えてください。
持分の買取りは、1年を超えて維持管理費を未払いの共有者に対して、他の共有者が相当の償金を支払うと効力が生じますので、未払いの共有者から拒否できません。
もっとも、持分買い取るまでの過程において、相当の償金で持分を買い取ることの通知・償金の支払いだけではなく、持分を移転するための登記が必要です。
登記への協力を拒否された場合は、登記手続請求訴訟を起こして、確定判決を得ることにより単独で登記申請する流れとなります。
持分を買い取られた共有者(維持管理費を未払いの共有者)に対し、裁判所から登記手続を命じてもらうための訴訟。
強制的に持分を買い取ることができれば、トラブルは解決となりますが長期間かかります。1年の未払いで持分買取権を行使すると予告することで、少しは未払いの抑止力になるのではないでしょうか。
経営方針で折り合わない
経営方針のように、金銭で解決できないトラブルのほうが深刻です。個人の考え方や過去の確執が原因のときは、根本的な解決方法がありません。
そもそも、争いのある共有者同士では、共有名義の不動産を維持するだけでも難しく、アパート経営はなおさら不向きです。
将来、共有者全員の同意が必要なタイミングになったとき、共有者間に争いがあると何もできなくなりますし、相続で共有者が増えると、さらに収拾がつかなくなるでしょう。
共有不動産の管理行為と変更行為
共有不動産では、何を行うのも共有者全員の同意を得ておくのが理想です。
しかし、共有者の意思がいつも一致するとは限らないため、共有不動産に与える影響が小さい行為を「管理行為」、影響が大きい行為を「変更行為」として、次のように分類されます。
必要な同意 | 該当する行為の例 | |
---|---|---|
管理行為 | 過半数持分の同意 | 賃貸借契約、賃貸借契約の解除、小規模な修繕など |
変更行為 | 共有者全員の同意 | 不動産全体の売却、建て替え、大規模リフォームなど |
ただし、アパート経営で最も多く行われる建物の賃貸借契約について、表では管理行為としていますが、明確な規定があるわけではありません。
判例などで示された基準としては、3年以内の建物賃貸借契約は管理行為(過半数持分の同意)、3年を超える(または契約更新で長期間になる)建物賃貸借契約は変更行為(共有者全員の同意)とされますので、必ず覚えておきましょう。
持分割合1/2同士が一番困るパターン
共有者が二人、持分割合1/2の共有では、どちらも持分が過半数ではなく、管理行為を決められる人が存在しません。
そうすると、意見の衝突があったときに、全員同意の変更行為はもちろんのこと、過半数持分で可能な管理行為すらできない状況になってしまいます。
とはいえ、持分割合を変えて不均衡にすると、それはそれで衝突になりそうですから、1/2同士の共有は、共有を解消するしか解決方法がないということです。
三人以上の共有なら管理者を決めて一任
共有者が三人以上、なおかつ把握できないほどの大人数でなければ、誰かを管理者に決めて、アパート経営を一任してはどうでしょうか。
なぜなら、三人以上で全員がお互いに犬猿の仲というは普通考えにくく、仲の悪い共有者がいても、他の共有者とは意思疎通できるケースが多いからです。
例えば、ABCが1/3ずつの持分だとして、AとBは決定的に仲が悪いけれども、AとC、BとCは、それぞれ通常の関係性を維持できているとします。
AとBは揉めやすいので、Cにアパート経営を一任してAとBには収益を分配すれば、何とかアパート経営を続けられるでしょう。家賃収入や維持管理費の負担など、公平に決めて書面に残しておくのは言うまでもありません。
外部委託して収支だけ分配する方法もある
共有者間の調整が、どうしてもできないときは、外部に委託することも一つの手です。
委託の方法には、管理全般を委託する管理委託と、運営も任せてしまう(運営会社がアパートを一括借り上げして転貸する)サブリースがあります。
当然ながら、委託すると手取りの収益は減るのですが、共有者間のわずらわしさからは解放されます。
共有を解消するしか方法がない場合
最後に、どうしても共有の解消しか方法がないとして、できることを紹介しておきます。
共有解消(または自分が共有を抜ける)には、次のような方法があります。
- アパート全体を売却
- 共有者間で持分を売買
- 第三者に持分を売却
- 共有物分割請求
上記の中で、共有者一人の判断でできるのは、第三者への持分売却と共有物分割請求です。
これらの他に、共有者間で持分を贈与するか、自分の持分を放棄することもできるのですが、両者はどちらも贈与税が発生することで、さらにトラブルとなりやすく除外しました。
なお、どのような方法で共有を解消するとしても、自分の持分を売却することになった場合は、持分の取得費との差益に譲渡所得税が課税されます。翌年に確定申告が必要なので注意してください。
アパート全体を売却
変更行為に該当するアパート全体の売却は、共有者全員の同意が必要です。
全員が売却の当事者となり、売却代金は持分割合で分配しますが、そうは言っても、共有者それぞれに都合はありますから、全員が集まって売却を進めるのは難しいかもしれません。
共有者の一人を代表として、他の共有者は代表者に委任する形での売却も良く行われます。
持分を共有者と売買
共有者間の持分売買は、同意が必要なのは売買の当事者だけです。
また、アパートの持分には、持分に相当する家賃収入が毎月発生しますので、当事者が合意していれば、賃料収入を原資とした分割払いも可能でしょう。
持分を売る側は、売った持分の家賃収入相当額を売却代金の一部として毎月受け取り、共有者ではなくなるので維持管理費の負担がありません。
持分を売って共有から抜けても、売却代金が完済されるまでは、これまでと同等の収入を維持できますし、持分を買う側に資金がないときこそ使いやすい収益物件ならではの方法です。
持分を第三者に売却
持分の売却は、他の共有者の同意を必要とせず、各共有者の自己判断で可能です。
一般に、共有持分は市場流通性が低く、持分を売却するとしたら買取専門業者となりますが、アパートには収益性があるため、投資家にも一定の購入意欲があると推測できます。
いずれにせよ、共有持分は十分な取引市場が形成されているとは言えませんので、手堅く売却したいなら買取専門業者になるでしょう。
買取専門業者を選ぶときは、買取実績や査定額の他、弁護士との連携なども確認して、売却後にトラブルが起こらないようにしておきたいところです。
共有物分割請求
共有物分割請求とは、共有の解消を目的として、他の共有者全員を相手に分割を請求することで、民法第256条第1項に規定されています。
(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。引用元:民法第256条第1項
分割となっているので勘違いしやすいですが、実際にアパートを区切って分割できるわけではないため、金銭的な分割で共有を解消することになります。
具体的には、共有者の一人が他の共有者の持分を全て買い受けるか(代償分割といいます)、アパート全体を売却して、売却代金を持分割合で分配する(換価分割といいます)どちらかの方法です。
分割を請求された他の共有者が拒否しても、最終的には訴訟でどちらかの分割方法が選択され、共有が解消されることに違いはありません。
ただし、訴訟による共有物分割は、換価分割が命じられた場合に競売で安い金額になりがちなこと、判決までに長期間かかるデメリットがあり、なるべく共有者間での協議による分割を目指すべきでしょう。
まとめ
アパート経営は、共有者に不公平がなければうまくいくはずなので、共有トラブルの解消を目指して経営が続くようにしたいですね。
それでも、共有者との関係が悪くなると、何をするにも常に誰かが反対するようになって、いずれは疎遠になって話し合いすらできなくなります。
共有者との関係修復が望めない時は、もはや共有している意味も失われているのですから、今後を考えるタイミングなのは間違いありません。
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