インタビューの背景と自己紹介
空き家問題を研究者視点から読み解く
── 本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきありがとうございます。
まずはじめに、今回のインタビューの趣旨を簡単にご説明させてください。
私たちアルバリンクは、空き家や相続不動産、共有持分といった、一般的な不動産市場では流通しにくい物件の課題解決に日々取り組んでおります。
現場で多くの所有者様の悩みに触れる中で、空き家問題は単なる不動産取引の枠を超え、日本の社会構造そのものと深く結びついていると痛感しています。
そこで今回は、現場の視点だけでは見えにくい「空き家問題の社会的背景」や「これからの動向」について、アカデミックな知見をお持ちの松村先生にお話を伺いたいと考えました。
どうぞよろしくお願いいたします。
松村先生:こちらこそ、よろしくお願いいたします。
建築と社会学を横断する、独自の「建築社会学」アプローチ
── 松村先生は、建築と社会学という二つの領域を横断して研究されていますよね。
まずは先生のこれまでの歩みや専門分野について詳しく教えていただけますか。
松村先生:現在は神戸学院大学の人文学部で講師を務めています。
専門は社会学ですが、私の経歴は少し変わっているかもしれませんね。
もともとは建築学を専攻し、設計事務所などで実務にも携わっていました。
二級建築士の資格も持っています。
しかし、実際に建物を設計し、物理的な形を作る仕事をする中で、次第に「建物そのものの美しさや構造だけでなく、その中に住む人や、建物が置かれている社会との関係性」に強く関心を持つようになったんです。
── ハード面としての建築だけでなく、ソフト面としての社会に興味が移ったのですね。
松村先生:その通りです。
その後、大学院で社会学に転じ、現在は「建築社会学」という視点から、人と建築、そして住宅が社会の中でどのように位置づけられ、どのような意味を持っているのかを研究しています。
空き家問題についても、単に「建物が古くなったから壊す」といった工学的な視点だけではなく、なぜ社会がこれほどまでに家を建て続け、そして放置するに至ったのかという、日本人のライフスタイルや制度の歪みを含めて考察しています。
空き家増加の背景にある「構造的なズレ」
── 日本の空き家数は現在900万戸を超え、全住宅の13%以上を占めていると言われています。
これほどまでに空き家が増えてしまった根本的な原因は何だとお考えでしょうか。
松村先生:最も大きな要因は「人口減少」です。
しかし、問題の本質は単なる数字の減少ではなく、人口動態の変化と、これまでの住宅供給システムの「ミスマッチ」にあります。
日本は戦後の高度経済成長期を経て、右肩上がりの人口増加を前提とした社会システムを作り上げてきました。
「結婚して独立したら、ローンを組んで新築のマイホームを持つ」という生き方が標準的なライフスタイルとして定着し、国も税制優遇や住宅ローン減税などを通じて、それを強力に後押ししてきたんです。
── いわゆる「マイホーム主義」が、経済成長のエンジンでもあったわけですね。
松村先生:ええ、かつてはその流れが正解でした。
しかし、人口がピークアウトし、世帯数も減少に転じている現在でも、その供給マインドセットが止まっていないことが問題なのです。
需要が減っているのに、新築住宅が次々と建てられ続ける。
その結果として、古い住宅が市場から取り残され、押し出されるようにして空き家が積み上がっていく……。
これが、現在の空き家増加の構図です。
── 供給過多の状態が、構造的に維持されてしまっていると。
松村先生:その通りです。
また、日本の住宅市場には「新築信仰」が根強く、中古住宅の流通が欧米に比べて極端に少ないという特徴もあります。
一度建てた家をメンテナンスして住み継ぐという文化が十分に醸成されないまま、新しいものを作り続けてきた「スクラップ・アンド・ビルド」の社会が、空き家という名の「過去の遺物」を大量に生み出しているのです。
老朽化した施設や非効率な設備を解体・廃棄し、最新の機能を持つ施設を新設すること
空き家を「課題」として扱う行政と、「可能性」を見出す研究者
── 世間一般では「空き家問題」という言葉がある通り、空き家は解決すべきネガティブなものとして語られることが多いですよね。
先生は空き家をどのように捉えていますか?
松村先生:確かに行政的な立場から見れば、空き家は「課題」の塊です。
倒壊の危険性、景観の悪化、放火のリスクなど、管理不全な空き家は地域コミュニティにとって明白な脅威となります。
そのため、法律を整備し、所有者に適正な管理を促したり、解体を支援したりというアプローチが必要なのは間違いありません。
ですが、研究者としての私の視点は少し違います。
私は空き家を、見方次第で大きな価値に転じる「可能性」の側面が強いものだと考えているんです。
── 可能性、ですか。
松村先生:はい、社会が成熟し経済成長が鈍化する中で、何もない更地にゼロから建物を建てるのはコストもリスクも高い。
しかし、すでにそこにある「空き家」という既存のストックを活用すれば、少ない初期投資で新しい試みを始めることができます。
いわば、空き家は社会における「余白」のようなものです。
カチカチに固まった都市構造の中に、少しだけ緩んだ、誰の手にも染まっていない空間がある。
そこにどんな新しい価値を流し込めるか。
そう考えると、空き家は決して忌むべき存在ではなく、むしろワクワクするようなリソースに見えてきませんか?
空き家活用の可能性
空き家を「社会の余白」と捉える先生の視点は、重苦しい空き家問題に一条の光を当てるかのようです。
課題として処理するのではなく、リソースとしてどう使い倒すか。
ここからは、具体的にどのような活用の形があるのかを伺います。
高騰する新築への対抗策としてのリノベーション
── 具体的に、空き家をどのように活用していくのが現実的なのでしょうか。
松村先生:まずは、王道ですが「リノベーションによる住居としての再活用」です。
現在、資材価格の高騰や人手不足の影響で、新築住宅の価格は一般の人には手が届かないほどに跳ね上がっています。
こうした状況下では、古い空き家を安く手に入れ、自分のライフスタイルに合わせてDIYやリフォームを施して住むという選択肢は、非常に合理的です。
構造さえしっかりしていれば、現代的な断熱性能や耐震性能を持たせることは十分に可能ですし、何より古い建物が持つ「趣」は新築では絶対に出せません。
── 最近では、自分たちで壁を塗ったり床を張ったりするDIY層も増えていますね。
松村先生:そうですね。単に費用を抑えたいというだけでなく、「自分の手で暮らしを作る」というプロセスそのものを楽しむ人が増えています。
これは、消費するだけだった住宅の在り方を、能動的な創造の場へと変える大きな変化だと言えるでしょう。

「住む」を超えた、地域コモンズへの用途転換
── 一方で、人口が減っている地域では、住宅として再活用するだけでは限界があるようにも感じますが。
松村先生:おっしゃる通りです。
住宅としての需要がない場所に、無理やり家として再生しても、また空き家に戻ってしまうだけです。
そこで重要になるのが「住居以外の用途への転換」です。
私が注目しているのは、空き家を「地域の居場所」や「民間図書館」、「公民館」のような、パブリックとプライベートの中間のような機能を持たせることです。
これを専門用語で「コモンズ(共有空間)」と呼んだりします。
例えば、高齢者が気軽に集まってお茶を飲める場所、子供たちが放課後に宿題ができる場所、あるいはフリーランスの人が仕事をするコワーキングスペースなどです。
「誰かの私有財産」だった空き家が、地域の人々が少しずつ関わる「みんなの場所」へと生まれ変わる。
このように、単に「住む」という活用法に限定せず、社会的に価値のある拠点へとシフトさせていくことが、これからの空き家再生の鍵を握っていると考えています。
地方と若者にとっての空き家:挑戦のハードルを下げる存在
── 空き家を「コモンズ」として活用するというお話がありましたが、特に地方においては、空き家が若者や移住者の定住につながる大きな武器になりそうですね。
松村先生:大いにチャンスになると思います。
これまでの日本社会は、都市部に資本や人口が集中し、地方は「衰退していく場所」というネガティブなイメージで語られがちでした。
しかし、人口減少や後継者不足が進んだ今の地方は、見方を変えれば「若者を受け入れる余地」がかつてないほど広がっている状態なんです。
── 空き家が、その受け皿になるわけですね。
松村先生:はい、起業や創作活動を始めようとする若者にとって、最大のネックは固定費、特に家賃負担です。
空き家を拠点として安価に、あるいは無償に近い形で借りることができれば、失敗のリスクを最小限に抑えながら新しいことに挑戦できます。
この「挑戦のハードルを下げる存在」としての空き家の価値は、今後ますます高まっていくでしょう。
地域資源としての空き家
若者が地方で挑戦する際の強力な味方として、空き家が機能し始めている実態が見えてきました。
低コストで活動を始められることは、新しい文化や産業が生まれる土壌になります。
しかし、こうしたポジティブな流れを作るためには、空き家を単なる個人の持ち物ではなく、「地域の資源」として守り、繋いでいく視点が欠かせません。
次に、空き家を地域の共有資産として残していくことの意義と、そこから生まれる新しい循環について伺います。
コモンズとしての活用と広がり
── 実際に、空き家を地域の共有資産として活用している具体的な事例はありますか?
松村先生:全国各地に素晴らしい事例が増えていますよ。
興味深いのは、行政主導のプロジェクトよりも、民間や個人が主体となって動き出しているケースが多い点です。
例えば、空き家を活用してカフェを営みながら、一角を子供たちの学習スペースにしたり、高齢者の見守り拠点にしたりする。
補助金を賢く活用しながらも、自分たちのやりたいことと地域のニーズを等身大で掛け合わせている事例が目立ちます。
残すことで生まれる「余白」の価値
── 単なる「建物の再利用」ではなく、新しい人間関係がそこから生まれているのですね。
松村先生:ええ、空き家を「ストック」として壊さずに残しておくことで、外から来た新しい人材やアイデアが流入するきっかけが生まれます。
逆に、すべてを取り壊して更地にしてしまうと、そうした新しい試みが入り込む「余地」そのものが失われてしまう。
何でも効率化して消し去るのではなく、あえて「余白」を残しておくこと。
それ自体が、地域の持続可能性につながるのだと感じています。
若者の価値観の変化:東京一極集中からの脱却
── 働き方の多様化も、空き家活用を後押ししているように感じますが、先生はどうご覧になりますか。
松村先生:間違いなく、大きなパラダイムシフトが起きています。
今の若者世代は、必ずしも東京で高収入を得て、タワーマンションに住むことだけを成功の定義としていません。
インターネット環境さえあれば、どこにいても仕事ができ、世界とつながれる。
そんな時代において、彼らは「自分にとって心地よい暮らし」や「居場所」を求めて地方に目を向けています。
── 価値観そのものが、大きく変化しているのですね。
松村先生:はい、高価な新築を買ってローンに縛られるよりも、安価な空き家を自由にカスタマイズし、地域の人と交流しながら暮らす。
そんなライフスタイルが、合理的かつクールな選択肢として認知され始めています。
空き家所有者が取るべき行動:放置という最大のリスク
── 非常に希望の持てるお話ですが、一方で、現実に空き家を相続して困っている所有者の方も多いです。
まず何をすべきでしょうか。
松村先生:物件の状況や立地にもよりますが、共通して言える最も重要なことは「放置しないこと」、これが鉄則です。
── やはり、早めの決断が大切なのですね。
松村先生:その通りです。
建物は、人が住まなくなると驚くほど早く傷みます。
湿気がこもり、シロアリが発生し、庭木が越境する。
放置すればするほど建物の価値は下がり、近隣トラブルのリスクは上がります。
住む予定がないのであれば、売却するのか、賃貸に出すのか、あるいは地域のコミュニティ拠点として貸し出すのか。
まずは現状を把握し、早めに方向性を決めることが、所有者にとっても地域にとっても最善の策となります。
今後の空き家と地域社会:構造変化の先のフェーズへ
── 最後に、これからの展望についてお聞かせください。
10年後、日本の空き家はどうなっていると思われますか。
松村先生:短期的には、空き家数はさらに増加し続けるでしょう。
これは人口構造上、避けられない現実です。
しかし将来的には、ただ「活用する」だけでなく、都市の規模を適切に縮小させていく「整理」のフェーズに入る地域も出てくると思います。
不要なものを手放し、本当に必要な場所を磨き上げていく。
そのプロセスを経て、日本はより豊かな「縮小社会」へと進化していくのではないでしょうか。
今後の取り組み:実践を通じた空き家活用
── 先生ご自身は、今後どのような活動に取り組まれる予定ですか。
松村先生:現在は私自身も空き家と畑を借りて、学生たちと一緒に実際に手を動かしながら改修や活用に取り組んでいます。
机上の空論ではなく、実践を通じて「空き家にはこんな可能性があるんだ!」ということを証明し続けていきたいですね。
建築と社会学、その両方の視点を持って、これからも人と建物の新しい関係性を探究していくつもりです。
── 空き家を「問題」として切り捨てるのではなく、新しい社会を作るための「リソース」として捉え直す。
先生のお話から、これからの時代を生きるためのポジティブなヒントをたくさんいただきました。
本日は、示唆に富む貴重なお話を本当にありがとうございました。
まとめ
「空き家問題」という言葉を聞くと、どこか暗く、解決の難しい課題のように感じてしまいがちです。
しかし今回、松村先生にお話を伺う中で、その認識は大きく覆されました。
先生が語る空き家は、かつての高度経済成長期の遺物ではなく、これからの成熟社会において私たちが自由に使いこなせる「余白」そのものでした。
もちろん、管理不全な空き家がもたらす物理的なリスクは存在します。
しかし、それを恐れてただ壊すのではなく、そこにどのような新しい物語を流し込めるか。
所有者や地域がその視点を持ったとき、空き家は「負の遺産」から「未来への資産」へと劇的な変貌を遂げるのだと感じました。
私たちアルバリンクも、不動産のプロとして、一つひとつの空き家が持つ潜在的な可能性を丁寧に見極め、最適な形へと繋いでいくお手伝いをこれからも続けてまいります。
松村先生、本日は誠にありがとうございました。
松村 淳 講師 プロフィール
1973年生まれ。神戸学院大学人文学部講師。関西学院大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。二級建築士の資格を持ち、設計事務所での実務経験を経て現職に至る。「建築社会学」を掲げ、建築家の職業実践や、住宅リノベーションを通じた都市再生に関する研究に従事。著書『建築家として生きる―職業としての建築家の社会学』で日本建築学会著作賞を受賞するなど、社会学と建築を横断する気鋭の研究者として注目を集めている。
株式会社AlbaLinkは東証グロース市場に上場している不動産会社です。

