シュリンキングシティ研究から見える人口減少社会の現実
これまでの都市計画は「いかに街を拡大するか」という都市開発を前提に議論されてきました。
しかし、人口減少社会に突入した現代においては、その前提を根本から覆す新しい視点が必要とされています。
まずは、ドイツやアメリカで生まれた「シュリンキングシティ」という概念の歴史的背景と、日本社会が直面している現実の全体像について吉田教授に詳しく紐解いていただきます。
シュリンキングシティとは何か
── 本日はよろしくお願いいたします。
弊社は日々、全国の空き家や訳あり物件の買取・再販事業を行っていますが、近年は地方だけでなく都市近郊でも空き家のご相談が増えていると実感しています。
まずは基本的なところからお伺いしたいのですが、先生が研究されている「シュリンキングシティ(縮小都市)」とは、どのような都市を指す言葉なのでしょうか。
吉田教授:こちらこそ、よろしくお願いいたします。
シュリンキングシティという言葉は、もともとドイツやアメリカを中心とした海外の都市計画や建築の分野で使われるようになった概念です。
特にこの言葉が世界的に広く知れ渡るきっかけとなったのは、建築家のフィリップ・オズワルト氏が2006年に出版した「shrinking cities」という著書や一連のプロジェクトでした。
ドイツの著名な建築家、都市計画家、および建築批評家。
人口減少や経済縮小に直面する都市問題にいち早く着目し、国際的なプロジェクトを主導した。
参照元:shrinkingcities : Projekt Schrumpfende Städte (KAS)
それ以前にも限定的な論考はありましたが、彼の本によって世界中の都市が人口減少を経験している実態が可視化され、学術的にも広く浸透していったのです。
── 2006年というと約20年前ですね。当時、海外ではどのような事態が起きていたのでしょうか。
吉田教授:背景として最も分かりやすいのが、東西ドイツ統一後に起きた大規模な人口移動です。
経済的な要因などから東ドイツから西ドイツへ大量の人口が流出し、残された東ドイツ側では労働者向けの住宅団地の空室が急増しました。
そこで当時の行政は、20棟や30棟もあった巨大な団地群を一部解体して5棟や10棟を減らし、残った場所へ人口を集約するようなドラスティックな都市の再編・減築を行ったのです。
── 都市を拡大するのではなく、あえて縮小させて再編していくのですね。
吉田教授:ええ。当時の日本では、高度経済成長期のなごりもあり、都市開発や市街化の拡大を前提とした研究が主流でした。
そのため、「都市を計画的に縮小させながら再編する」という海外の発想は、私を含めた日本の研究者にとって非常に衝撃的だったのです。
── 人口が減り、住宅が余ると、具体的にどのようなリスクが生じるのでしょうか。
吉田教授:空き家や空室が局所的に増えると、ゴミの放置や窓ガラスの破壊といったヴァンダリズム(公共物破壊)が起きやすくなり、治安や景観が悪化します。
当時は移民の流入による団地の環境変化なども重なり、地域の平穏を維持するためにも、人口を集約して利用されなくなった古い建物を撤去するという減築の発想が生まれました。
こうした、都市の空洞化に伴う生活環境の維持やインフラの最適化を目指す取り組みこそが、シュリンキングシティ研究の出発点になっているのです。

ドイツライプツィヒの減築後の団地2016
なぜ縮小都市研究に取り組むようになったのか
── 先生ご自身は、もともと日本の王道とも言える都市計画を専門に研究されていたとのことですが、なぜシュリンキングシティという「都市の縮小」を扱う研究へ関心を持たれたのでしょうか。
吉田教授:少し個人的な歩みをお話ししますと、私は1996年から愛知県の豊橋技術科学大学で助手を務め、その後1998年に筑波大学へ移りました。
つくば市は計画的に作られた研究学園都市として有名ですが、その周辺に目を向けると、本来は開発が抑制されるはずの市街化調整区域であるにもかかわらず、民間による様々な開発が進んでいる地域が数多く存在していました。
茨城県つくば市に建設された、日本最大規模の研究開発・教育の拠点都市。
国家プロジェクトとして計画的に整備され、多くの国公立などの研究機関や大学が集積し、科学技術の発展を牽引する役割を担っている。
── 中心部の計画的な街並みの裏で、周辺部では複雑な開発が行われていたのですね。
吉田教授:そうなんです。しかし問題だったのは、それだけ開発されたにもかかわらず、実際には家が建ち並ばず、十分に市街化が進んでいない「疎ら」な場所が目立っていたことです。
当時は10年経てば街ができる可能性もあり、長い目で見る必要はありましたが、それらの郊外を回る中で「東京郊外であっても、将来的には急激な人口減少や空洞化の兆候が現れるのではないか」という強い危機感を抱くようになりました。
── その時に海外の新しい概念と出会ったわけですね。
吉田教授:はい。ちょうどその危機感を持っていた2006年頃に、海外からシュリンキングシティという概念が紹介されました。
私がそれまで取り組んでいた筑波の郊外研究や空き地問題とも相性が良く、日本の未来を予兆していると感じたため、本格的にこの研究分野へ関心を持って取り組むようになりました。
世界中で進む人口減少と縮小都市
人口減少や空き家の増加を前にすると、私たちはどうしても「日本固有の少子高齢化問題」と捉えがちです。
しかし、世界に目を向ければ、この現象は地球規模で同時に進行している構造転換であることが分かります。
ここからは、吉田教授が収集されたグローバルなデータをもとに、世界各地の縮小都市の実態と、人口減少が引き起こす具体的な生活インフラへの弊害について解説していただきます。
縮小都市は日本だけの問題ではない
── 人口減少による都市の縮小やそれに伴う空き家の増加は、やはり日本独自の深刻な現象なのでしょうか。
吉田教授:決して日本だけの問題ではありません。
世界的な人口動態のデータをマクロに見ていくと、ヨーロッパでは東西統一の影響を受けたドイツをはじめ、スペインの地方都市、バルト三国、そして北欧のフィンランドに至るまで、非常に広い地域で広範な人口減少が進んでいます。
また、広大な国土を持つアメリカやオーストラリアの地方・旧工業地帯にも、同様の人口減少地域が存在しています。
── 先進国でもそれほど広い範囲で都市が縮んでいるのですね。
吉田教授:ええ。さらに近年では、中国の地方都市やタイ、そして何より韓国など、アジア諸国でも同様の現象が急速に表面化しています。
特に韓国は出生率の低下が極めて深刻で、日本以上に地方都市の維持や人口減少への対応が大きな政治・社会課題になっています。
世界地図を俯瞰してみれば、国ごとの経済成長のフェーズや歴史的背景に違いはあれど、縮小都市は世界共通の構造的な課題だと言えるでしょう。
人口減少によって何が起きるのか
── 人口減少や都市の縮小が進むことで、私たちの実生活には具体的にどのような問題や弊害が起きてくるのでしょうか。
吉田教授:最も分かりやすく、かつ深刻なのが空き家問題です。
例えば東北地方などの雪国では、適切に管理されなくなった空き家が冬場の雪の重みに耐えかねて損壊し、屋根瓦が道路へ落下するケースがあります。
もしその横が通学路だった場合、子供たちの安全を著しく脅かすことになりますよね。
こうした個人の私有財産の限界を超えた具体的なリスクに対応するため、秋田県大仙市などの自治体が独自に条例を作って危険な空き家の撤去基準を設けました。
これが全国に広がり、国全体の法律として整備されたのが「空家等対策の推進に関する特別措置法」です。
放置された空き家が招く倒壊や治安悪化などのリスクに対応するため、2015年に施行された法律。
適切な管理を怠った所有者に対し、自治体が改善の助言・指導、勧告、さらには強制撤去などの命令を行う。
参照元:空家等対策の推進に関する特別措置法|e-Gov法令検索
── 現場の危険な実態が、空き家対策の法整備を動かしたのですね。
吉田教授:その通りです。さらに人口減少は、目に見えにくい都市インフラの維持管理にも深刻な影響を与えます。
例えば、私たちが日常的に利用している上下水道や道路などは、その地域の人口が半分に減ったからといって、物理的な規模が縮小するわけではないため、維持管理コスト自体は大きく減りませんよね。
そのため、利用者が減るほど住民一人あたりの負担が大きくなり、水道料金の高騰などを招きます。
これに加えて、採算悪化による公共交通の撤退(交通空白地帯の増加)や公共サービスの縮小など、人口減少は都市のさまざまな機能を内側から停滞させていくのです。
空き家はすべて活用すべきなのか
空き家問題の解決策というと、メディアでは「古民家カフェへのリノベーション」や「移住者のためのシェアハウス活用」といった華やかな成功事例が注目されがちです。
しかし、すべての空き家を同じように活用できるわけではありません。
本章では、今後の都市再編において不可欠となる、空き家の「市場性」に応じた現実的な切り分けの視点と、民間事業者が果たすべき役割について吉田教授の鋭い見解を伺います。
市場に戻せる空き家と戻せない空き家
── 弊社のような不動産業者の目線では、空き家は「いかにリフォームして活用するか」という点に注目してしまいます。
しかし、すべての空き家を活用できるわけではないとも感じますが、その見極めについてはどのようにお考えですか。
吉田教授:それは、これからの縮小都市時代を生き抜く上で、最も本質的かつ重要な視点だと思います。
メディアは成功事例ばかりを好みますが、現実の都市空間はそんなに甘くありません。
市場に乗るものと、市場から外れていくものの「両方」を冷徹に見つめる必要があります。
まず、市場性がある空き家であれば、民間企業の力を借りて、できる限り市場へ戻していくべきです。
市街地にある住宅や、交通利便性の高い地域にある物件は、適切な流通プロセスを経ることで十分に再利用できる可能性があります。
たとえ訳あり物件や事故物件であっても、一度誰かが住むことで心理的ハードルを下げて流通させるような、市場に戻すための工夫や「抜け道」のような仕組みも、ある種の市場復帰の努力だと言えるでしょう。
── 一方で、どうしても需要が見込めない、市場に乗らない物件もありますよね。
吉田教授:そうですね。例えば、かつての都市化や開発の過程において、郊外や市街化調整区域などで、過剰に投資目的で開発されてしまった住宅地などです。
吉川祐介氏の著書『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』でも描かれているような、今後二度と需要が見込めない土地ですね。
そうした場所については、無理に商業的な空き家活用を目指すのではなく、仕組みを作って「解体して自然(林など)へ戻す」という選択肢も本気で考えなければなりません。
都心部は市場へ戻す努力を徹底し、需要が見込めない郊外の場所は撤去して別の形で再編していく。
この両輪の割り切りが必要なのだと考えています。
空き家買取事業者の役割
── そうした中で、一般的な不動産市場では扱いにくい、地方や郊外の古い空き家、あるいは訳あり物件などを専門に買い取って再生・流動化させている弊社のような空き家買取業者の役割については、どのようにお考えですか。
吉田教授:都市を効率的かつ望ましい形で利用していくためには、所有権が膠着して放置されている不動産ストックを市場へ戻していく仕組みが必要不可欠です。
その意味で、一般の不動産会社が敬遠しがちな物件を独自のノウハウで流通させる事業は、地域社会の防災や防犯の観点からも非常に重要な役割を担っていると思います。
御社のようなビジネスが活発になることは大いに歓迎すべきことです。
通常の不動産流通では扱えない限界的な空き家を、地域の土地利用計画や行政の都市計画とうまくマッチングさせながら市場につなげる仕組みを強固に構築できれば、さらにその社会的な価値は高まっていくと思います。
縮小都市は特別な存在ではなくなる
最先端の学術的な「問題提起」として始まった縮小都市研究ですが、時代の変化とともに、その言葉が持つ社会的な位置づけも変わりつつあります。
東京一極集中が議論される一方で、地方の現実をどう受け止めるべきなのか。
吉田教授が直面した開発志向の社会から、現代の誰もが人口減少を認識する社会への変遷を振り返りながら、この研究分野が迎える未来の姿に迫ります。
「縮小都市」という言葉が不要になる未来
── 今後も日本が人口減少を続けていく以上、シュリンキングシティ研究はますます重要な分野であり続けるのでしょうか。
吉田教授:もちろん、具体的なデータ分析や現場の対策手法を開発するという意味での研究は続いていくと思います。
ただ、言葉の持つ意味合いは少し変わってくるかもしれません。
というのも、私たちが若い頃、つまり27、8年前に研究者になりたてだった1990年代後半は、まだ人口増加をしていた時代の最後の名残りがあり、世間には開発志向が強く根付いていました。
そのため、人口減少や縮小都市という概念自体がほとんど知られておらず、私たちが「近い将来、必ず人口減少社会が来るぞ」とあえて強い言葉で問題提起をする必要があったのです。
── 当時はまだ、都市が縮むという現実を誰も直視していなかったのですね。
吉田教授:そうなんです。しかし現在では、人口減少や少子高齢化は誰もが日常的に認識する当たり前の社会課題になりました。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2050年には人口1億人程度、2100年には極端な推計で約6000万人になるというデータもあります。
参照元:日本の将来推計人口(令和5年推計)の公表資料 仮定値表、推計結果表|国立社会保障・人口問題研究所
これに伴い、東京以外のほぼ全ての地域が今まさに人口減少を経験しているわけですから、極端に言えば東京以外はみな縮小都市になっているとも言えます。
もちろん、そこに住む人々が日々「自分たちは縮小都市に住んでいる」と意識して生きているわけではありませんが。
── 特別な現象ではなく、日本全体の共通の前提になったわけですね。
吉田教授:ええ。かつては異端の問題提起だったものが、今や誰もが疑わない当たり前の前提になりつつあります。
そうなると、将来的には「縮小都市」という言葉自体を、わざわざ特別な専門用語として使わなくなる可能性もあります。
都市が縮むことを当たり前に受け入れた上で、どう社会を維持するかという、次の段階に入っているのだと思います。
これからの都市づくりに必要な視点
拡大の時代を終え、縮小を受け入れたとき、私たちの住む街はどのような魅力を放つことができるのでしょうか。
最終章では、これからの日本の都市計画が目指すべき進路について伺います。
経済的な効率性や合理性だけを追い求めるのではなく、住む人の心と身体の豊かさに寄り添う、これからの時代のまちづくりのあり方を吉田教授に提唱していただきます。
新しい都市を作る時代から、既存都市を磨く時代へ
── 人口減少が当たり前の前提となったこれからの時代、日本の都市計画やまちづくりのあり方はどのように変化していくと考えていますか。
吉田教授:これからは、新しい都市を次々と外側へと開発する時代ではなくなっていきます。
そもそも日本には、これまでの歴史の中で先人たちが築き上げてくれた、過剰なほどの道路や上下水道、公共施設といった都市基盤がすでに国中に整っています。
わざわざ莫大なコストをかけて新しい街を作る必要性はどこにもありません。
これからは、新しい都市を作ることではなく、今ある既存の都市資産を内側から徹底的に磨き上げ、より住みやすく、より持続可能な形へと再編していく時代になります。
── 人口減少を前提にしながら、街の質を高めていくということですね。
吉田教授:その通りです。これからは、効率性や経済合理性だけを追い求めるのではなく、高齢者も若者も全年齢層の住民が健康で幸せに暮らせる都市づくりが求められます。
近年は、人々の健康や幸福を重視したまちづくりのアプローチとして「スマートウェルネスシティ」という考え方も注目されています。
先端技術を活用するスマートシティの基盤に、住民の「健康・幸福(ウェルネス)」の視点を融合させた都市構想。
歩いて暮らせるコンパクトな街づくりを通じ、全年齢層の住民のウェルビーイング向上を目指す。
新しく大規模な跡地ができた場所に先進技術を詰め込むようなスマートシティの開発も一部にはありますが、日本全体としては、今ある地方都市を無駄なくコンパクトにし、歩いて暮らせる範囲に医療やコミュニティを配置して、住む人の幸福度(ウェルネス)を高めていく方向へ都市政策は進んでいくでしょう。
まとめ
今回のインタビューを通じて、吉田教授が提唱される「シュリンキングシティ(縮小都市)」の視点は、人口減少を悲観するためのものではなく、これからの社会をより豊かに再編するための前向きなコンパスであると感じました。
日本のみならず世界中でドミノ倒しのように進行している人口減少。
その中で増え続ける空き家に対して、私たちは「すべてを活用する」という執着を捨て去る時期に来ているのかもしれません。
利便性が高く市場性のある物件は、民間企業の知恵とスピード感をもって速やかに流通市場へと還流させ、次の世代へとつなぐ。
その一方で、役割を終えた郊外や需要の見込めない土地については、計画的に建物を撤去し、緩やかに自然の姿へと戻していく。
この冷徹な見極めと適切な役割分担こそが、持続可能な都市計画において決定的な鍵となります。
私たちアルバリンクとしても、日々の空き家買取・再生事業という現場の取り組みが、マクロな縮小都市時代におけるインフラ流動化の重要な歯車の一部であることを再認識いたしました。
吉田教授、本日は大変示唆に富む貴重なお話をいただき、誠にありがとうございました。
株式会社AlbaLinkは東証グロース市場に上場している不動産会社です。

