再生可能エネルギー研究から地域再生・空き家活用へ
過疎地域との出会い
── まず先生の研究について教えてください。
高野教授:私はもともと大学院で環境学を研究しており、再生可能エネルギーを専門にしていました。
日本で有望な再生可能エネルギーとして、小水力発電や木質バイオマスがあります。しかし、それらの資源が豊富なのは地方の中山間地域です。
一般河川や農業用水、上水道などの小規模な水流を利用して発電する小規模な水力発電。天候による出力変動が少なく安定した発電が可能であり、日本の山間部・中山間地域に豊富な資源が存在することから、地域密着型の分散型エネルギー源として期待されている。
現地を調査する中で、水や森林資源は十分にある一方、過疎化や人手不足によって資源を活用できていない現実を目の当たりにしました。
そこで、再生可能エネルギーの研究に加え、地域再生についても研究するようになりました。
過疎問題は、突き詰めれば「人がいなくなる問題」です。その解決には、地域外から新たな人を呼び込む必要があります。
私が研究を始めた頃は地方移住の流れはほとんどありませんでしたが、2010年頃から若い世代の移住が増え始めました。
移住希望者がいるのであれば、住まいを確保しなければなりません。しかし田舎には賃貸住宅が少ないため、空き家活用が重要になります。
空き家を抱えて困っている所有者と、住まいを求める移住者をつなげることができれば、双方にとってメリットがあります。そうした考えから、空き家の活用は、家を持て余している所有者、住まいを求める移住希望者、そして地域の担い手を求める地域、この三者すべてにとって良い結果をもたらす「三方よし」の関係を築けるのではないかと考え、本格的に研究と実践に取り組んできました。
岐阜県で見えてきた空き家問題の実態
現場に入って見えたこと
── 現在は岐阜県で活動されていますが、研究者時代との違いはありましたか。
高野教授:大きなギャップはありませんでした。もともと現場に入りながら研究をしていたからです。
ただ、実際に地域住民として暮らすことで、空き家所有者や地域住民の気持ちをより深く理解できるようになりました。
空き家は多いのに住まいが足りない
── 中山間地域ではどのような問題が起きているのでしょうか。
高野教授:最も大きな問題は、空き家はたくさんあり、そこに移住したいという需要もあるのに、マッチングが全く成立していないことです。
そもそも田舎には民間の不動産会社がほとんどありません。そのため、多くの自治体が行う「空き家バンク」が事実上の流通窓口となっています。
地方自治体が運営する、空き家の売却や賃貸を希望する所有者から提供された物件情報を、移住や定期的な利用を希望する人に対して紹介するシステム。民間の不動産業者が介入しにくい過疎地域における空き家流通の重要な窓口となっている。
都市部から移住したいと考えている人は非常に多く、物件の紹介を求めて空き家バンクに登録しています。中には魅力的な物件を逃さないよう、毎日のように各地の空き家バンクをチェックしている人もいるほどです。
しかし、空き家バンクに登録する移住希望者の数に比べて、そこに登録される空き家の数は圧倒的に不足しています。なぜなら、空き家の持ち主が自分から進んでバンクへ登録することはまずないからです。
つまり、現場の地域には空き家が山のように溢れているにもかかわらず、市場やバンクに物件が出てこないため、移住希望者が住める家が全く足りないという深刻な供給不足が生じているのです。
なぜ空き家は流通しないのか
空き家は単なる不動産ではない
── 所有者が登録しない理由は何でしょうか。
高野教授:大きな理由は、田舎の空き家が単なる不動産ではなく「実家」だからです。
多くの場合、所有者は地元で生まれ育ち、高校や大学への進学、あるいは就職を機に都市部へ出てそこで家庭を築いています。親だけが実家に残り、その親が亡くなったことで空き家になります。
子世代にとっては、自分自身が育った思い出深い「実家」そのものであり、家の中には親の荷物や生活用品、アルバムなどの家財、器具、そして仏壇もそのまま残っています。そのため、最初から他人に「貸そう」「売ろう」という不動産活用の発想がそもそも生まれないのです。
管理は続けているが将来像が描けない
高野教授:所有者の多くは、草刈りや換気といった最低限の管理のために、お盆や法事の時期などに時々戻ってきて実家のお世話を続けています。
しかし、人が普段住んでいない家は少しずつ確実に傷んでいきます。
「誰も住む予定はないけれど、どうしていいか分からない」という状態のまま年月が経ち、やがて所有者自身も高齢になって管理に来られなくなると、最終的には廃屋になってしまいます。さらに、家だけでなく「農地や山林」もセットで相続されていることが多く、その処分の難しさにどうすればよいか頭が真っ白になり、途方に暮れてしまうケースが少なくありません。
東日本大震災以降に高まった地方移住
暮らし方を見直す人が増えた
── 移住希望者は実際に増えているのでしょうか。
高野教授:確実に増えています。
特に大きな転機となったのが2011年の東日本大震災と原発事故です。それまで信じていた都市部の便利な生活がいかに危ういものかを実感し、スーパーやコンビニの棚から一瞬で物が消え去る現実を見たことで、生き方の価値観を見直す人が現れました。
「食べるものは自分の手で作れるようになりたい」「都会のような孤立した生活ではなく、困ったときに助け合えるコミュニティで暮らしたい」と考える人が増えたのです。
岐阜県内の中山間地域でも、行政の支援などを活用して毎年約1,500人が県外から地方へ移住しています。その多くが30代前後の子育て世帯です。若者が出ていく一方だった過疎地域にとって、小さな子どもを連れたファミリーが新たに入ってくることは、世の中がひっくり返るほどの歓迎すべき大変化なのです。
所有者が空き家を貸せない6つの理由
課題を一つずつ解決する
── 空き家を活用するためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
高野教授:私たちは地域住民と一緒に所有者を訪ねてアプローチします。役場の職員が突然連絡しても、警戒されて話を聞いてもらえないからです。まずは元の同級生や親戚など、地元の知人から「このままでは地域が消滅してしまうから協力してほしい」と声をかけてもらいます。
それでも、いきなり登録に同意する人はほぼおらず、最初は断られます。そこで「なぜ貸せないのか、売れないのか」を聞くと、空き家を貸せない理由はおおむね次の6つの課題に整理されます。
・荷物が片付いていない
人に貸すためには家の中をまっさらにしなければならず、そのあまりに膨大な作業量を想像するだけで途方に暮れてしまいます。
・仏壇や位牌が残っている
ご先祖様の仏壇をどうすればいいか悩む心理的障壁です。これには「本当に大切なのはご先祖様の魂が宿る『位牌』なので、それだけを手元に引き取り、残った仏壇本体は抜け殻として処分しても良い」と伝えることで解決へ導きます。
・修繕費が高額
修繕費に数百万円かかると言われると出せませんが、「修繕せずにそのまま現状有姿で貸し出し、借り手が入居後にDIYで直すことを前提として家賃を安く設定する」という方法を提案します。
・相続手続きが複雑
親だけでなく祖父の名義のまま長年放置されている事例も多くあります。「このまま放置すると、次世代の子どもたちにさらに複雑な負担を押し付けることになる」と必要性を丁寧に説明し、司法書士や行政の登記費用補助へ繋ぎます。
・倉庫として利用している
荷物置きとして一部のスペースを使い続けたいという要望です。これには、特定の物置スペースや納屋を「所有者専用の倉庫」として除外した契約を結ぶことで解決します。
・どんな人が住むのかわからず不安
インターネット経由で突然見知らぬ人に買われ、近隣トラブルになることを防ぐため、後述するお見合い形式の「地域面談」を行うことで不安を解消します。
重要なのは、これらの課題を一つずつ地道に紐解いて解決していくことです。
地域ぐるみの片付け支援
高野教授:特に物理的な負担が一番大きいのは荷物の整理です。以前に私たちが片付けたときは、15人がかりで丸2日作業し、大きなフレコンバッグが20個も出るほど凄まじい量がありました。家族だけでやろうとすれば確実に心が折れてしまいます。
そこで、行政の片付け補助金を活用するほか、地域の移住定住を支援するグループが主催してボランティアや地域住民が総出で手伝う「空き家片付けイベント」を開催します。
使えるものはフリーマーケットで販売したり、手伝いに来た人が欲しいものを事前に印をつけて持ち帰って良いルールにしたりするなど、楽しみながら地域全体で片付けのハードルを下げています。
空き家活用は長期戦である
登録までに数年かかることも珍しくない
── 所有者が決断するまでには、どれくらいの時間がかかるのでしょうか。
高野教授:最初に声をかけてから、実際に空き家バンクに物件が登録されるまで、早くても3〜4年、長ければ5〜6年かかります。
親が亡くなった直後であれば「三回忌まではそっとしておいてほしい」という気持ちに寄り添って待つ必要があります。また、いざ活用しようとした段階で、普段は管理をしていない親戚から売却や賃貸に反対意見が出てきて調整に数年かかるのもよくあることです。
途中で面倒になって投げ出しそうになる所有者を、地域の仲間たちが「将来のために」と何度も励ましながら粘り強く寄り添い続けます。こうした地道な動きができる地域は移住者を呼び込んで存続でき、何も動けない地域はそのまま廃屋が増え、消滅へ向かうことになります。
地域面談による丁寧なマッチング
移住者と地域をつなぐ仕組み
── 物件が登録された後は、どのようにマッチングを行うのでしょうか。
高野教授:空き家活用は、インターネットに載せて物件をただ引き渡せば完了するものではありません。移住者が地域に馴染めなければ結局は退去することになり、お互いにとって不幸せな結果になってしまうからです。
そこで私たちは、物件に入りたいという希望者、空き家所有者、そして地域住民が顔を合わせる「地域面談(お見合い)」を行っています。
ここでは、都会に比べて非常に高額な自治会費の理由や、草刈り・溝掃除といった地域活動のルール、行事などについてあらかじめ丁寧に説明します。事前の説明がないまま突然請求されるとトラブルになりますが、納得のうえで入居してもらう丁寧なコミュニケーションこそが、トラブルを避けて長く住み続けてもらうための鍵になります。
次のステップは地域共有財産化
空き家・農地・山林を地域資源として活用する
── 今後の課題についてどのように考えていますか。
高野教授:今後は空き家だけでなく、農地や山林もセットで考えていく必要があります。地方では、家と一緒に使わなくなった農地や広大な山林も相続されますが、お荷物となって管理できず「とにかく手放したい」と困っている所有者が非常に多いからです。
こうした山林や農地は一般的な民間企業でも買い取りが難しく、国が定めた土地引き取り制度も厳しくて活用されていません。また、農地は70代以上の高齢者が米を作っていることが多く、彼らが辞めると耕作放棄地だらけになってしまいますが、これらを大規模にまとめて集約すればビジネスとして経営が成り立つチャンスもあります。
これらは個人の財産ではありますが、同時にコミュニティ全体を存続させるための資源でもあります。そのため、市町村よりも小さいミクロな地域コミュニティが主体となり、いらなくなった空き家や山林を買い取るか寄付を受けて「地域共有財産(公共財)」として一体的に管理・運用する仕組みが今後必要であると考えています。
空き家活用の新たな可能性「民泊」
観光による地域活性化
── 最後に、今後取り組みたいことを教えてください。
高野教授:空き家を活用した「民泊」や観光事業にとても大きな可能性を感じています。過疎化の根本原因は農業や林業といった地域産業の衰退です。そこで、新たな雇用と収入を生み出す手段として観光業が注目されています。
日本人にとっては見慣れた何でもない田舎の風景も、海外の人(インバウンド観光客)にとっては非常に魅力的な観光資源になります。私は、イタリアの アルベルゴ・ディフーゾ のような仕組みに注目しています。
イタリアで発祥した「分散型ホテル」を指すまちづくり手法。地域内に点在する空き家を客室やフロント,食堂などに見立て、地域全体を一つのホテルとして運営する。地域の歴史的な景観を維持しながら、観光振興と空き家対策を両立するモデルとして世界的に注目されている。
集落に点在する複数の空き家を宿泊用の客室として使い、受付やレストランを一箇所にまとめて地域全体をホテルとして回すモデルです。私たちのプロジェクトでも、すでに2軒の空き家がゲストハウスとして稼働しています。
これが「ちゃんと儲かる事業」としてビジネスモデル化できれば、周囲の所有者も「それならうちの空き家も提供して使ってもらいたい」と前向きになり、若い世代の安定した仕事にも繋がります。ネットでの個別の売買や賃貸にとどまらず、都市部の投資家や不動産会社(例えば大阪の会社など)とも連携しながら、地域と繋がって観光業などのビジネスを立ち上げる支援にも手広く取り組んでいきたいと考えています。
まとめ
空き家問題は単純に「空き家が余っている」「住みたい人がいる」という不動産の問題ではないということです。
地方の空き家の多くは、所有者にとって思い出が詰まった実家であり、相続や親族との関係、仏壇や家財の整理など、さまざまな事情が絡み合っています。そのため、空き家バンクへの登録や売却は簡単には進みません。
一方で、地方への移住を希望する人は確実に増えており、特に子育て世帯を中心に中山間地域への関心が高まっています。しかし、実際に流通している物件は限られており、移住希望者とのマッチングが十分に行われていないのが現状です。
こうした課題を解決するためには、所有者の悩みに寄り添いながら、荷物整理や相続手続きなどの障壁を一つずつ解消していく地道な支援が欠かせません。また、移住者と地域住民が事前に交流し、お互いを理解するための丁寧なコミュニケーションも重要になります。
さらに今後は、空き家だけでなく農地や山林も含めた地域資源全体の活用が求められます。民泊や観光事業など新たな地域産業と結び付けることで、空き家活用は地域経済の活性化や雇用創出にもつながる可能性を秘めています。
高野教授のお話からは、空き家活用の本質が「家を流通させること」だけでなく、「人と人、人と地域をつなぐこと」にあることがうかがえます。空き家を地域の負担ではなく資産へと変えていくためには、長期的な視点と地域全体で支える仕組みづくりが今後ますます重要になるでしょう。
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