共有名義不動産の売却で委任状が必要なシーンとは
共有名義不動産の売却時には、原則共有者全員の立ち会いが必要になります。
このとき、住まいが遠方であったり入院をしていたり、やむを得ない事情で立ち会えない場合は、委任状が必要になります。
不動産における委任状とは、所有者本人の意志によって行うべき手続きを代理人へ委託したことを証明する書類です。代理人は、委任した人の代わりに手続きを行う人を指します。
委任状を作成して代理人に委任することで、不動産売却時に自身が行うべきだった手続きを代行してもらえます。
原則、共有不動産の売却時には共有者全員の立会が必要
自分の持分だけ売却するのであれば単独の手続きで行えますが、共有不動産全体の売却する場合は、共有者全員の立ち会いが必要です。
これは、持分割合が10分の1など、ごくわずかな所有であっても同様です。
売買契約、代金決済・重要事項説明など、売却において重要な場面では共有者全員が立ち会わなければなりません。
共有者が立ち会えない場合は委任状の作成で代替可能
売却に合意していても、共有者全員が売却手続きの度に集まるのは現実的に厳しいでしょう。
このような場合に、委任状を作成して代理人を選任することで代替可能となります。
尚、委任状による売買契約の代理の場合も偽造による被害防止のため、買主側による本人への意思確認は重要です。
代理人に選ばれる人は、他の共有者・司法書士などの専門家のどちらかであることがほとんどです。
共有名義不動産を売却する際の委任状作成方法【フォーマット付き】
委任状には明確なフォーマットはありませんが、条件を満たすために記載が必要な項目があります。
以下で詳しく見ていきましょう。
委任状に規定の書式はない
委任状にはとくに規定の書式がなく、入れる文言などは各自の自由です。
ただし、下記の内容は、委任状の効力をもたせるために記載が必須です。
- 委任者の記名押印
- 受任者
- 委任事項(どこまで委任するか)
- 対象の不動産の特定
委任状の用紙は、内容が明確に読み取れるのであればメモ帳やコピー用紙でもかまいません。
記載する必須項目だけは抑えておきましょう。
委任状の記載例【コピペOK】
委任状の記載例は下記のとおりです。
委任状
受任者住所 ◯◯県◯◯市◯◯区 ◯◯ ◯ー◯ー◯
受任者住所 ◯◯ ◯◯
記
私は、下記不動産を目的とする令和◯年◯月◯日付不動産売買契約の締結に関し、上記の者を代理人と定め、次の権限を委任します。
1.私の所有する末尾記載の不動産の売買契約に関する権限
2.所有権移転などの登記簿に関する権限
3.売買代金受領に関する権限
不動産の表示
土地[所在]◯◯区◯◯ ◯丁目
[地番]◯◯番◯◯
[地目]宅地
[地積]◯◯.◯◯㎡
建物[所在]◯◯区◯◯ ◯丁目
[家屋番号]◯◯番◯◯の◯
[種類]共同住宅
[構造]鉄筋コンクリート造2階建
[面積]1階 ◯◯.◯◯㎡
2階 ◯◯.◯◯㎡
委任者住所 ◯◯県◯◯市◯◯区 ◯◯ ◯ー◯ー◯
委任者氏名 ◯◯ ◯◯
印
令和 年 月 日
以下余白
委任者が複数人いる場合は、連名で委任状を作成しておけば一通のみで済ませられます。
尚、上記記載例は本人と経済的一体性のない方が代理する場合などはリスク回避の観点からは不十分です。
代理人の判断の余地を残していると本人の関与しないところで不利益な契約を締結される恐れがあります。
ですので、売買価格や引き渡し予定日なども含めて契約の主要部分を明確に記載したり、それを書くのが大変ということであれば締結する契約内容を委任状に別紙として添付しておくということも代理人の権限乱用を防止することにつながります。
また、事前に決定した契約内容に定めのない事項や内容に変更がある場合は、代理人が勝手に判断できない旨を定めた条項、委任状の有効期限の定めなどを記載しておくこともリスク回避につながります。
委任状に添付する書類
委任状は、記名押印によって法的な効力が生じるため、認印・実印のどちらでも問題ありません。
しかし、不動産取引は金額も大きく重要な契約であることから、実印を押すのが一般的です。実印を押印する際には、本人の印鑑であることを証明するために印鑑証明書が必要になります。
印鑑証明書は、法務局の窓口・郵送・オンラインで取得でき、市区町村によってはマイナンバーカードがあればコンビニでも発行可能です。
参照元:総務省|コンビニ交付とは
本籍地がコンビニ交付に対応しているかどうかは、コンビニエンスストア等における証明書等の自動交付で「利用できる市区町村」を選択後、本籍地で検索すると確認できます。
なお、印鑑証明書の発行には印鑑カードが必要です。
印鑑カードを保有していない場合は、法務局で「印鑑カード交付申請書」を提出すると、窓口であれば即日・無料で発行できます。
共有名義不動産の売却で委任状を作成する際の注意点
ここでは、委任状を作成するときに注意すべきポイントを解説します。
委任内容を具体的に記載しておく
委任内容の解釈が分かれるような記載はトラブルにつながるおそれがあります。
例えば、一部を空白にしたまま委任者が署名・押印だけして委任内容の記載を任せる「白紙委任状」を作成するシーンもあります。しかし、委任した後に内容を好きに後づけできてしまうため、不利な条件で不動産を売却されたりする可能性があるのです。
そのため、代理人に委任する部分を限定して記載しておく必要があります。
具体的には、下記のような内容を記載しておくべきです。
- 売買契約の締結
- 決済当日の金銭の授受
- 登記手続き
後々のトラブルを避けるためにも、委任内容を具体的に記載しておきましょう。
委任状の一番下に「以下余白」の文言を記載する
委任内容の下の余白に、委任状を提出した後に追記・書き加えられる可能性があります。
委任状の一番下に「以下余白」の文言を記載しておきましょう。
捨印を押さない
委任状を提出する段階で捨印を押さないようにしましょう。
捨印とは、氏名を記入した後に押す印鑑と別にもう1箇所押す印鑑のことです。誤りがあったときに押す訂正印と同じ役割をもち、委任状など訂正箇所が発生してもすぐに本人が修正対応できないシーンで利用されます。
しかし、捨印を押していると、売買条件など委任状の記載内容が好きに変更されてしまうおそれがあります。
委任状の重要部分を変えられないよう、捨印は押さずに提出しましょう。
共有者が認知症を患っている場合は委任状で売却できない
共有者が認知症を患っている場合は、判断能力なしとみなされ、委任状が無効になります。加齢や認知症など、判断能力をもっていないと家庭裁判所に認定された人を、成年被後見人と言います。
(成年被後見人及び成年後見人)
第八条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。引用元:e-Gov法令検索|民法第8条
詳しくは後ほど解説しますが、判断能力の欠如がある場合には成年後見制度を活用することで、売却できるようになります。
なお、成年後見制度については、以下の記事でも詳しく解説していますので、併せて参照ください。
民法上の判断能力とは?
民法では、判断能力が欠如している状態で行った法律行為は無効になるとされています。
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
不動産の売買契約における法律行為を行なうためには、意思能力・行為能力が必要です。
意思能力と行為能力の違いは下記のとおりです。
- 意思能力:契約内容に理解ができて、自身の行為の結果を判断することができる能力
- 行為能力:自身の行為の結果を判断した上で、単独で法律的な行いができる能力
片方、あるいは両方の能力が欠如している場合、契約は無効または取消しとなります。
認知症患者がいる場合は成年後見制度を活用するべき
成年後見制度とは、認知症や精神障害などで判断能力が不十分となった人を守る制度のことです。
参照元:厚生労働省|成年後見制度とは
判断能力が不十分となった人に不動産売却の委任状を書いてもらっても無効になりますが、成年後見制度を活用すれば、不動産売却は可能です。
成年後見制度では、認知症患者の代わりに契約や財産管理などを代行してくれます。このような業務を代行する人を成年後見人と言います。
法定後見人と任意後見人の違い
成年後見制度には、任意後見・法定後見の2種類があります。
両者の違いを以下にまとめました。
任意後見 | 法定後見 | |
---|---|---|
利用できる人 | 本人の判断能力がある人 | 本人の判断能力が ・不十分な人 ・著しく不十分な人 ・ほとんどない人 |
後見人を決める人 | 本人 | 家庭裁判所 |
後見人の職務 | 本人の希望をもとに契約内容を決める | 家庭裁判所によってあらかじめ決められている |
後見人への報酬 | 契約で決める | 家庭裁判所で決める |
監督する人 | 任意後後見監督人 | 家庭裁判所 |
法律行為の取消権の有無 | なし | あり |
申立てのタイミング | 本人の判断能力が十分ある段階 | 本人の判断能力が低下した段階 |
参照元:厚生労働省|成年後見制度とは
参照元:厚生労働省|法定後見制度とは
上記のように、任意後見制度のほうが本人の判断能力が十分なので自由度が高い内容になっています。
すでに、認知症を患っている場合は、任意後見人ではなく法定後見人の選任が必要です。
共有名義不動産の売却の流れ
この章では、共有名義不動産の売却を買取業者に依頼する流れについて解説します。
共有者の確定
相続で代替わりを続けていると、故人の前妻との子どもなど、面識のない人が共有者である場合があります。
登記簿を確認して、共有者を確定させましょう。登記簿は、法務局の窓口・郵送・オンラインで取得できます。
不動産全体の売却に共有者全員の合意を得る
不動産売却の手続きは、共有者全員が売却に賛成していることが前提となります。
1人でも反対する人がいれば、共有名義不動産は売却できません。
共有者全員の合意が得られたら、言った・言わないといったトラブルを避けるために、同意書を作成しておきましょう。
不動産業者へ相談
合意が得られたら、共有者全員の同意書をもって不動産業者へ相談しましょう。
不動産業者によって査定価格は大きく異なるため、目安として3社は訪問しましょう。
また、査定価格と同時に、担当者の対応の良し悪しもここでチェックしておきます。
必要書類の取得
依頼する不動産会社が決まったら、必要書類を取得しましょう。
共有名義不動産の売却で主に必要となる書類は、以下のとおりです。
-
- 権利証(登記識別情報)
- 共有者全員の身分証明書・印鑑証明書・住民票・印鑑
- 委任状(委任者がいる場合)
- 土地測量図および境界確認書
売買契約
買取金額や物件の引き渡し条件などの契約内容に、売主・業者が合意したら売買契約を締結します。
売買契約の当日は、売買契約書の読み合わせや手付金の受領などが行われます。
決済・登記
引き渡しの当日は業者のオフィスに向かい、司法書士の立ち会いのもと手続きを進めます。
主な手続きは下記のとおりです。
- 抵当権の抹消手続き
- 鍵や関係書類の引き渡し
- 手付金を差し引いた残代金決済
- 司法書士への報酬の支払い
これらを済ませて、不動産買取の取引は終了となります。
他の共有者と話し合いが難しい場合は専門の不動産業者に相談しよう
冒頭にもお伝えしたとおり、共有名義不動産の全体売却は共有者全員の合意が必要です。
もし、共有者との関係が悪い・連絡が取れないなどの理由から不動産全体の売却が難しい場合は、自身の持分のみを売却する方法もあります。
ただし、持分のみの売却になると買い手はかなり限定されます。普通の不動産業者に相談しても、買い取りを断られることがほとんどです。
持分のみを売却する場合は、持分の専門業者に相談しましょう。
買い手に疎遠にされがちな持分のみの売却も、専門の買取業者であれば、収益化につなげられるノウハウをもっており、不動産の潜在的な価値に対して金額をつけて買い取ってもらえます。
弊社も、持分のみの買い取りを積極的に行っている専門業者です。
なお、共有持分の不動産を高額で買い取ってくれる業者については、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
本記事では、委任状の書式例や、共有名義不動産の売却の流れを解説しました。
相続で代替わりが続いた共有名義不動産は、トラブルが起こりやすく、スムーズに売却に移行できないことがほとんどです。
「共有者の合意が得られない」「持分のみの売却について詳しく知りたい」など、お悩み・疑問がございましたら、弊社に一度ご相談ください。
全国の複雑な権利関係をもつ不動産を豊富に取り扱ってきた弊社であれば、売主様のお悩み解決のお役に立てると自負しております。
ぜひお気軽にお問い合わせくださいませ。