鋸南町の空き家問題|現状と対策について町の担当者を取材
適切に管理されない空き家が増え、社会問題となっています。
平成27年(2015年)5月には、「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家対策特別措置法)」が全面施行されました。
参照元:国土交通省|空家等対策の推進に関する特別措置法(概要)
本法のなかで、所有者による空き家の適正管理と、自治体による空き家対策計画の作成・実施が各々の責務として位置づけられました。
千葉県鋸南町では、令和4年(2022年)3月に第2期となる「鋸南町空家等対策計画」を公表し、空き家問題の解決や町民の生活環境の保全に取り組んでいると言います。
今回、鋸南町の空き家の現状や対策について、町の担当者にお話を伺いました。
はじめに、鋸南町における空き家の推移を伺えますか?
鋸南町には、26の行政区(自治会)があります。
平成26年度(2014年度)に町内の「空家等実態調査」を実施し、各行政区の区長に空き家の件数を報告していただきました。その時に確認された空き家の件数は、729件です。
その後、令和2年度(2020年度)に「空家等実態調査」を実施したところ、町内に312件の空き家が確認されています。
また、倒壊の危険性や著しい衛生上の問題等がある特定空家については、平成29年度(2017年度)から認定を開始し当初の認定件数が67件でした。令和2年度(2020年度)の「空家等実態調査」では、特定空家の認定件数は58件となっています。
空家等 | 平成26年度 | 令和2年度 |
件数 | 729件 | 312件 |
※空家等:概ね1年間、居住・使用されていない建物および敷地
参照元:鋸南町|鋸南町空家等対策計画
特定空家等 | 平成29年度 | 令和2年度 |
件数 | 67件 | 58件 |
※特定空家等:空家等のうち、安全面・衛生面等で著しく危険性・有害性のあると判断されるもの
参照元:鋸南町|鋸南町空家等対策計画
鋸南町では、調査開始当初より空き家の件数が減っているようですね。
たしかに、数字上は、空き家の件数が減っているように見えます。ただ、これにはいくつか理由があるんですね。
まず、平成26年度(2014年度)の「空家等実態調査」では、建物の外観目視や近隣住民への聞き取り調査をもとに空き家の判断をしました。というのも、ご協力いただいた行政区長では、水道の閉栓状況等 を確認することが困難だからです。
一方で、令和2年度(2020年度)の調査では、建物の外観目視や近隣住民への聞き取りに加え、町のほうで水道の閉栓状況等も確認して空き家の判断をしました。より厳密に調査をしたところ、「空き家と思われていた建物が実は使用されていた」というケースもあったんです。
また、ご存じのように、鋸南町は「令和元年東日本台風(台風第19号)」により、2,146世帯が屋根を飛ばされるなどの被害を受けました。
ですから、台風の被害で建物が倒壊したり、建物を修繕したりして、結果的に空き家の解消にいたったということも考えられます。
参照元:NHK 千葉放送局|台風15号から3年 人口減少進む被災地をみつめて 千葉 鋸南町
それらに加えて、町民の皆さまが空き家の対策をしてくれたり、解体してくれたりだとか、何らかの対処していただけたのも空き家の件数が減少した要因と考えています。
鋸南町で空き家が発生する原因としては、どのようなことが考えられますか?
ひとつは、親から相続したものの、遠方に住んでいるなどの理由から管理不足になることです。
国土交通省の調査報告(令和元年空き家所有者実態調査)によれば、空き家となった住宅の取得経緯としては、「相続」が54.6%ともっとも多い状況です。
鋸南町の高齢化率は48.1%で、千葉県内で2番目に高くなっています。そうしたデータから推測すると、相続のタイミングで家が使われなくなることが、空き家が発生している主な原因になっていると考えています。
特定空家の所有者は、半数以上が町外に住んでおり、相続したものの距離的に足を運べないという方も多いですね。なかには、「相続するまでそこ(鋸南町)に家があることを知らなかった」とおっしゃるご家族・ご親戚もいらっしゃいます。
もうひとつは、所有者の経済的な理由が大きいですね。例えば、年金で生活しているため、空き家の管理や解体費用を捻出できないといったように。経済的な面で対処する術がなく、空き家として据え置かれているケースも多いです。
鋸南町の空き家対策を教えてください。
鋸南町では、「鋸南町空家等対策計画」を策定し、3つの基本方針を立て空き家対策に取り組んでいます。
空家化の抑制・予防
空家化の抑制・予防に関しては、町のホームページで情報提供したり、千葉県の広報物を掲示したりして、町民の皆さまに空き家放置によるデメリットや空き家の処分方法などを案内しています。
それから、千葉県建築士会の鋸南支部が住宅相談会を年1回開催しており、そのなかで住宅に関する悩みのひとつとして空き家の相談も承っています。
また、「空き家」と一口に言っても、建物の状態や抱えている問題はさまざまです。
鋸南町では、空き家の利活用が検討できるものは「地域振興課」、倒壊など周辺環境に影響を与えるものは「建設水道課」といったように相談・対応窓口を設け、町民の皆さまから寄せられる相談に応じて適切な対応ができるように体制を整えています。
空家の市場流通・活用促進
鋸南町では、空き家をできる限り有効活用できるように、空き家バンク制度を導入しています。
空き家を「売りたい」「貸したい」といった場合、まずは物件を「鋸南町空き家バンク」に登録していただきます。
登録方法は、「空き家バンク物件登録申込書」、「空き家バンク物件登録カード」、「同意書」に必要事項を記入し、地域振興課に申し込む形です。
参照元:鋸南町|鋸南町空き家バンク
登録された物件は、「鋸南町空き家バンク」のホームページ上で誰でも閲覧可能です。そちらを見て気に入った物件があれば「空き家バンク利用登録申込書」を地域振興課に提出いただき、利用登録をおこなった上で物件の内覧等に進みます。
鋸南町では、町内の宅建業者と協定を締結しています。空き家の購入・賃借を希望される場合、町が宅建業者を案内し、そちらで内覧や契約等の手続きをしていただく形です。
令和5年度(2023年度)からは、空き家バンクを通して物件の売買・賃借が成立した場合、物件を空き家バンクに登録した所有者に5万円の奨励金を支給する事業を予算化しています。
それから令和5年度(2023年度)には、「空き家片付け応援支援金」という名目で、空き家内の残置物を片付けるための補助金がスタートします。限度額は20万円です。
例えば、単身世帯で亡くられて相続人が遺品整理をおこなわないと、仏壇や家具等がそのままでどうしても生活感が残ってしまいます。そうすると、建物の状態が良くても買い手がつかなかったり、そもそも売りに出せなかったりするので。空き家の利活用を検討しやすいように、予算を設けました。
こちらの支援金は、空き家バンクに登録することを条件に支給を受けることができます。
管理不全状態にある空家の抑制・解消
近隣住民や行政区長等から情報をいただき、管理不全の空き家を把握した場合には、町の担当者が現地調査をして、安全性や衛生面等の問題を確認します。
そこで、特定空家に該当すれば、空家対策特別措置法に基づいて助言・指導に進めていく形です。
特定空家に該当しない場合には、所有者に通知して、空き家の適正管理や利活用を案内しています。
残置物(私物)の片付けに補助金が出るようになるんですね。
そうですね。「建物を壊せばそこで終わりでつながりがない。できるだけ活用して居住や事業につなげたい」というのが、鋸南町の考え方です。
奨励金や支援金ができる前からも、鋸南町には「空き家バンク制度」がありました。
それと、空き家対策とは異なりますが、居住している住宅を改修するための「鋸南町住宅リフォーム補助制度」もありました。
これまではその間、つまり、空き家バンクを通じた空き家利活用を促進するための仕組みがなかったんです。
奨励金や支援金ができたことで、空き家を利活用しやすい流れを作りました。
空き家の処分を検討した時に、
- 残置物があったら「空き家片付け応援支援金」を活用して片づける。
- その物件が空き家バンクを通して売買・賃借が成立すると、所有者に奨励金が支給される。
- その後、購入者や賃借人が鋸南町に住み、生活するなかで自分なりに家を改修したいということであれば「鋸南町住宅リフォーム補助制度」が活用できる。
このような流れをつくったことで、鋸南町に定住する人が増えたり、空き家を持つ人の処分するきっかけとなったりすればと考えています。
空き家対策の効果はいかがでしょうか?
空き家の総件数からすると数は少ないですが、空き家バンクに登録される物件数は増えてきています。
平成27年度(2015年度)の運用開始当初は新規登録物件数が1件だったのに対し、令和2年度(2020年度)には10件となっています。
物件が登録されるだけでなく、売買や賃貸契約にうまくつながっているようですね。
引用元:鋸南町|鋸南町空家等対策計画(令和4年度~令和8年度)
また、町内では、空き家になっていた建物が解体されるなど、何らかの対処をされている様子がまま見られるようになりました。
もしかすると、空き家問題・対策の広報がきっかけで、空き家の処分に前向きになってくれている方が増えているのかもしれません。
鋸南町の空き家対策について、今後の展望を教えてください。
鋸南町は、小規模な自治体です。逆に言うと、地域コミュニティが活発な自治体でもあります。そのため、皆さんご近所付き合いがあるから、お互いの迷惑にならないように、空き家になっても適切に管理したり速やかに処分したりされるんですね。
空き家が問題化しやすいのは、鋸南町に建物を所有し、町外にお住まいになられているケースが多いです。町が通知を出しても、経済的な面ですとか、距離的な問題とかでなかなか現地に来られず、放置されたまま問題解決が進まないということが少なくありません。
町としては、奨励金や支援金などの案内もしつつそれをきっかけにしていただいて、地道に注意喚起していくことが重要と考えています。
もちろん、「建物の一部が剥離して通行人がケガをしそうだ」とか、「子どもの通学路にある建物が今にも倒れそうだ」といったように。緊急性の高いものについては、町としても把握し、注意喚起の看板を立てるなどの対策をしていく必要があります。そうした問題がありましたら、町民の皆さまには引き続き情報提供をおこなっていただきたいと思います。
まとめ
今回は、千葉県鋸南町における空き家問題の現状・対策についてお話していただきました。
印象的だったのは、空き家の所有者が町外に住んでおり、問題解決に難航するケースが少なくないということです。自分の生活圏内から距離があると、空き家を所有していても、対策を後まわしにしてしまいやすいものなのかもしれません。
鋸南町では、空き家の残置物の処分や空き家バンクでの物件販売・賃貸契約成立時に、支援金や奨励金を支給する制度を整備しました。こうした補助金は、空き家の処分を検討する良いきっかけとなるはずです。
実際に現地に足を運んでみると、空き家の状態や周辺環境への影響を体感しやすいでしょう。空き家を適切に処分する第一歩として、まずは、現状を把握することからはじめてみてはいかがでしょうか。
(取材・執筆・撮影/田口 昇平)