旦那名義の家から「出て行け」と言われても居住はできる
旦那名義の家について旦那から「出て行け」と言われても、婚姻中であれば、妻が家を出て行く必要はありません。
たしかに、家の所有者から出て行けと言われたら、言われた側は出て行く必要があるのが基本です。
仮に知人の家に居候しており、知人から出て行けと言われたら住み続けられないことは、多くの方が認識するところでしょう。
しかし、婚姻中に旦那が妻に出て行けと言うことは、所有権の有無だけでは済ませられない問題です。
民法第752条では、婚姻の効力として、夫婦には同居、協力・扶助の義務があることが明らかにされています。
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。引用元:民法第752条 | e-Gov 法令検索
夫婦の一方である旦那(夫)が妻に「出て行け」と言うことは、明らかに夫婦の同居義務違反です。
実際、旦那ら所有者が家に住み続けている妻に対して所有権(共有持分権)に基づいて家の明け渡しを求めた事案について、「妻は夫婦の扶助義務に基づいて家を使用する権原がある」として請求を認めなかった裁判例があります。(東京地判平成30年7月13日判タ1471号189頁)
1つの不動産を2人以上で所有する場合において、そのうちの1人が持つ所有権やその割合のこと。
法律上、ある行為を正当化するに足る原因・根拠のこと。たとえば、家に住むという行為は所有権で正当化される。
つまり、裁判において旦那が妻を追い出そうとした請求は認められず、妻が勝訴しました。
むしろ、旦那による民法第752条の同居、協力及び扶助の義務に違反する行為で精神的苦痛を被ったとして、妻が旦那に慰謝料を請求できる可能性もゼロではありません。
旦那名義の家に対する妻の権利【離婚時】
婚姻中は妻が旦那名義の家から出て行く必要はないものの、離婚した後は事情が異なります。
婚姻中に妻が出て行く必要がない理由は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」といった条文の効果が適用されるためです。
離婚後は「夫婦」ではなく他人となるため、この条文を根拠に住み続けることはできません。
しかし、民法第768条では、離婚後は相手に財産の分与を請求できると定められています。
(財産分与)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
元旦那名義の家でも、夫婦が協力して取得または形成したものであれば、元妻はその家を含む財産について、分与を請求できます。
財産分与の請求が認められている理由の1つは、夫婦が協力して取得または形成した財産は、実質的に夫婦が共有している財産であるとの考えです。
しかし、財産分与の具体的な内容が決まるまでは、元旦那名義の家について所有権(共有持分)や住み続けられる権利(利用権)など占有権原は認められません。
さらに、財産分与の具体的な内容を定める前に、元旦那が明渡し請求や家の売却を進める可能性もあります。
急を要する場合は、民事保全の手続を利用することも検討してください。
裁判(訴訟)を起こす前に、相手の財産を仮に差し押さるなど現状を維持するための裁判手続のこと。たとえば、不動産について財産分与を請求しようとするとき、相手が不動産を売却してしまわないよう、裁判を起こす前に不動産を仮に差し押さえる。
旦那名義の家に対する妻の権利【死別時】
旦那と死別した際、旦那の親族から家を出て行けと言われる可能性もあります。
この場合、妻には配偶者短期居住権が認められているため、最低でも6ヶ月間は旦那名義の家から出ていく必要はありません。
旦那の相続を放棄した場合でも認められる権利です。
共同相続人である旦那の子や兄弟姉妹には、妻が家を使用することを妨害しない義務も定められています。
ただし、道義上当然ですが、故意に旦那を死亡に至らせて刑に処せられた妻や、旦那の遺言書に不正をした妻に配偶者短期居住権は認められません。
また、配偶者短期居住権は、元旦那が亡くなった日から6ヶ月経過した後、遺産分割で新たな家の所有者が決まると消滅します。
遺言や遺産分割協議で配偶者居住権を取得しない限りは終身の権利ではないため、早めに新たな住まいを探すことが大切です。
財産分与の注意点2選
離婚で旦那名義の家に住み続ける場合、財産分与などに関して妻が注意すべき点が多くあるため紹介します。
離婚後も旦那名義の家に住み続けるのは避ける
離婚後は、元旦那名義の家に住み続けるのは避けましょう。
離婚後は他人の家となるので元妻が住み続けられるとは限らず、不安定な立場に置かれるためです。
離婚後も元旦那名義の家に住み続ける元妻に向けて、注意すべきポイントを紹介します。
なお、以下の記事でも離婚後に旦那名義の家に住み続けると生じるトラブルについて解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。
売却された家は取り戻せない
離婚後も元夫名義の家に妻が住むことを避けるべき理由は、元旦那の気が変わり「出て行け」と言われたり、家を売却されたりする可能性があるからです。
法律上、元旦那が家を売却するためには、元妻からの同意が必要といった制限はありません。
当然、そもそも家の所有者ではない元妻が家の売買を取消したり、無効にしたりして家を取り戻すことは不可能です。
一般的な賃貸物件では、家の所有者が変わってもただ貸主が変わるだけで、新たな所有者から家を追い出されることはありません。
一方で、元旦那から無料で住ませてもらっている場合は、賃貸ではないため新たな所有者から家を追い出される可能性があります。
さらに、出て行けと言わず、家を自ら売却しなくとも、元旦那が住宅ローンを延滞すると競売で売却に至る可能性もゼロではありません。
こうしたトラブルを避けるために、以下のような対応も検討しましょう。
- 「無断で譲渡した場合はいくら支払う」といった合意を書面にしておく
- 元旦那と賃貸借契約を締結する(有償で住み続ける)
- 住宅ローンを元妻の名義で借り換える
また、財産分与で対策する方法もあるため、詳しくは次項で解説します。
住んでいる家を勝手に売られたらどうなるかや、予防方法については、以下の記事もご覧ください。
売却される前に財産分与しておく
離婚後も元旦那名義の家に住み続けることにリスクがあるのは、家の所有権がないことが大きな要因の1つです。
所有権(共有持分)があれば、元旦那による無断での売却を防ぎ、仮に元旦那が住宅ローンを延滞し競売に至ったとしても住み続けられる場合があります。
そのため、元旦那に対して財産分与を請求して、家に所有権(共有持分)があることを主張することが大切です。
財産分与でどのように財産を分けるかは、元夫婦の協議で自由に決められます。
財産分与の具体的な方法の例は、以下のとおりです。
方法 | 概要 |
---|---|
代償分割 | 住み続ける側が家を買い取る |
換価分割 | 売却し、得た売却代金から諸費用を控除した額を分ける |
使用貸借権の設定 | 無償で住ませてもらう |
賃借権の設定 | 家賃を支払いながら、有償で住む |
共有 | 共有持分を登記し、賃料相当額を支払いながら住む |
ただし、方法によっては、後述するとおり住宅ローンを借りた金融機関から承諾を得る必要があるなどの注意点があります。
どの方法をとるにしても、元旦那名義の家について評価額を知ることが大切です。
不動産会社に査定を依頼し、査定額を把握したうえで財産分与の具体的な方法を決めることをおすすめします。
なお、査定を依頼する際は、より詳細に査定できる訪問査定がおすすめです。
アルバリンクは、共有名義・共有持分に強いので、精度の高い査定額を提示できます。買取価格も高めなので、ぜひ一度ご相談ください。
旦那名義の家にローン残債がある場合は金融機関へ相談する
旦那名義の家にローンの残債がある場合、離婚する際は金融機関に相談することが大切です。
金融機関との契約では、以下のような場合に承諾や届出が必要とされています。
- 住所を変更するとき
- 家を譲渡(売却)するとき
- 家を共有名義にするとき
- 家を賃貸するとき
金融機関に相談しなかった場合、発覚時には住宅ローンの一括返済を求められる可能性があるので注意が必要です。
ローンの残債がある場合の対応については、以下の記事でも詳しく確認できます。
アルバリンクは、住宅ローンが残っている物件の売却もご相談いただけます。金融機関との交渉もお任せください。
旦那名義の家を妻に名義変更する手順
ここでは、旦那名義の家について、元旦那から元妻に登記上の名義を変更する手順を解説します。
名義変更の流れ【離婚時】
離婚時、財産分与で名義変更する流れは、以下のとおりです。
手順はそれほど煩雑ではありませんが、財産分与の契約書(財産分与協議書など)の書類を揃える際に注意すべき点が多数あります。
財産分与の取り決めを契約書にする
財産分与で名義変更する際に行う所有権移転登記の申請時は、登記原因証明情報が必要です。
売買の場合は売買契約書ですが、財産分与では財産分与協議書や財産分与について記載した離婚協議書などが該当します。
財産分与協議書では、以下の内容を明らかにしましょう。
- 財産分与協議の当事者の氏名と住所
- 財産分与協議の成立日
- 土地の所有権の帰属
- 建物の所有権の帰属
- 土地の表示(所在、地番、地目、地積、不動産番号)
- 建物の表示(所在、家屋番号、種類、構造、床面積)
土地や建物について表示する際は、登記事項証明書と同様の記載が求められます。
名義変更に必要な書類を用意する
財産分与を原因として不動産の所有権移転登記を申請する際、必要な書類は以下のとおりです。
なお、旦那(夫)が妻に所有権を分与する場合を前提としています。
- 財産分与協議書
- 夫の登記識別情報通知書又は登記済証権利証原本
- 妻の印鑑(認印でよい)
- 妻のマイナンバーが記載されていない住民票の写し
- 夫の印鑑(実印)
- 夫の3ヶ月以内に作成された印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
- 離婚の記載のある戸籍全部事項証明書
固定資産評価証明書の提出は不要ですが、登記申請書に記載する課税価格や税額の計算に必要です。
離婚後、早めに登記しなければ元旦那と第三者が二重に不動産を売買してしまい、不動産の所有権を主張できなくなる可能性があるので注意してください。
役所に離婚届を提出する
名義変更に必要な書類を用意できたら、市区町村の役所に離婚届を提出します。
届出時は、マイナンバーカードや運転免許証など、本人確認書類を持参しましょう。
法務局で名義変更の申請をする
離婚届が受理されたら、できる限り早く、法務局(登記所)に名義変更の申請をします。
必要事項を記載した登記申請書と必要書類を、法務局(登記所)の窓口に提出しましょう。
司法書士などに委任する場合も少なくありませんが、元夫婦が協力して申請することもできます。
また、申請用総合ソフトを使ってオンラインで申請することも可能です。
名義変更にかかる税金
所有権移転登記申請にかかる税金(登録免許税)は、固定資産税評価額の2%です。
固定資産税評価額が1,000万円の場合、登録免許税額は20万円となります。
なお、清算の趣旨に限る財産分与であれば、妻に不動産取得税や贈与税は課税されません。
名義変更の流れ【死別時】
元旦那と死別した場合、名義変更(所有権移転登記)の原因は財産分与ではなく、相続となります。
死別時の名義変更(相続登記)の流れは、おおむね次のとおりです。
- 戸籍関係書類などを市区町村の役所に請求して集める
- 名義変更に必要な書類を用意する
- 法務局で名義変更の申請をする
手続きの流れ自体は財産分与と同様ですが、必要書類(登記原因証明情報)が一部異なります。
相続登記に必要な登記原因証明情報は戸籍関係書類で、遺産分割による場合は遺産分割協議書、遺言による場合は遺言書が必要です。
戸籍関係書類の具体的な内容はケースによって異なるため、市区町村などにご相談ください。
相続登記にかかる登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%です。
不動産取得税は非課税ですが、相続税が課税される場合があります。
なお、元旦那名義の家を相続すると、親子などで共有名義となるケースが少なくありません。
共有名義の不動産は、全員の同意がなければ売却できませんが、ご自身の共有持分だけなら、ご自身だけで買取業者などに売却できます。
なお、法定相続分の割合については以下の記事で詳しくご確認ください。
アルバリンクは、多くの不動産会社が避ける共有持分の買取を、専門的に対応しています。相続に強い専門家との連携もあるので、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
旦那名義の家から「出て行け」と言われても、離婚後に財産分与の内容が定まっていない場合を除いて直ちに出て行く必要はありません。
しかし、離婚後も旦那名義の家に住み続けていると、旦那による売却や住宅ローン滞納による競売によって、家を出ていかなければならなくなる可能性もあります。
そのため、離婚後も旦那名義の家に住み続けたい場合は、早めに財産分与の話し合いを進めることが大切です。
不動産会社に旦那名義の家について査定を依頼した結果、財産分与で住み続けることを目指すより、売却して現金を得るほうが良いと思える場合もあるかもしれません。
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