「越境の覚書」とは越境物問題の解決に関する合意書
越境物のある家を売却する場合、隣人と越境の覚書を取り交わすことが重要です。
越境物の覚書とは、越境物問題の解決に関する内容が記された合意書を指します。
屋根の一部・ブロック塀・庭木などの所有物が隣地に侵入している状態は、本来であれば隣地所有者の「妨害排除請求権」によって撤去請求が認められます。
所有者が目的物を占有しているものの、なんらかの形で妨害されている場合に相手に排除を請求できる権利
しかし、越境物の覚書があれば、相手の所有権を妨害している状態でも合意を得られている旨を書面に残せるので、排除を保留してもらえる上に、言った言わないのトラブルになるリスクも回避できます。
越境問題は当事者間が気付いていないことが多く、土地の相続・売却をきっかけに測量を行いはじめて発覚するケースが大半です。
越境物の覚書を作成するには測量が必要になるので手間・費用がかかりますが、土地を売る、売らないにかかわらず越境が発覚した時点で作成するべきです。
次章で、越境物の覚書を書くメリット・書かないデメリットを具体的に見ていきましょう。
越境物の覚書を書くメリットとデメリット
越境物の覚書を書くメリット・書かないデメリットは以下のとおりです。
- 【メリット】住宅ローンが使えるようになる
- 【デメリット】トラブル物件だと思われて価格が下がる
越境物の覚書作成によって、どのようなメリットとデメリットが生じるのか理解して書類作成に移行しましょう。
【メリット】住宅ローンが使えるようになる
越境物の覚書を作成しておくと、買主が住宅ローンが使えるようになります。
住宅ローンは返済が滞ったときに備えて、借入する人の返済能力を調べると同時に不動産を担保に設定します。
その際、越境物がある不動産は通常よりも活用制限があることから「瑕疵物件」と認識されるケースが多く、担保価値が低く評価されます。
本来なら不動産に備わっているはずの機能・性能・要件が満たされていない状態の物件
しかし、越境物の覚書があると越境している状態でも、将来的に問題解決する見込みがある旨が評価に反映されるため、住宅ローンが通りやすくなります。
ただし、越境が生じていること自体は不動産にとってマイナス要因です。
越境物のある物件は「融資希望額より減額される」「金利が高くなる」など、不利な借入条件になる点は念頭に置いておきましょう。
【デメリット】トラブル物件だと思われて価格が下がる
越境物の覚書を作成しないデメリットは、トラブル物件だと思われて売却価格が下がる点です。
越境物の覚書は「隣人同士がお互いに状況を把握して納得し合っている関係」であることを表す証拠書類です。
そのため、越境物の覚書がない物件は、すでにトラブルが起きている、もしくは今後トラブルに発展する不動産だと買主に警戒されるため、売却価格が下がる可能性が高くなります。
越境物の存在が発覚した時点で、越境を解消するか覚書を作成するか、どちらかの対応をとるのが重要です。
なお、敷地境界線をめぐる隣人トラブルについては以下の記事で詳しく解説しています。
越境物の覚書を作成する5つの手順
越境物は撤去した状態で売却するのがベストですが、建物の一部が越境しているケースなど、状況によってはすぐに撤去できない場合もあります。
その場合、隣地所有者に合意を得て越境物の覚書を作成し、越境問題の解消を保留してもらいましょう。
この章では、越境物の覚書を作成する以下5つの手順について解説します。
- 土地家屋調査士に作成を依頼する
- 境界確定の測量を行う
- 越境物を特定する
- 解消方法について協議する(いつ、どのように?)
- 覚書を作成する(越境物に関する覚書、越境解消の覚書)
土地家屋調査士に作成を依頼する
まずは、土地家屋調査士に測量図の作成を依頼しましょう。
土地家屋調査士とは、不動産の表示に関する登記や土地の筆界(境界)を明らかにする業務の専門家です。
「どのような越境物が、どのくらい越境しているか」を把握するには、隣地との境界の確定が欠かせません。そのため、越境物の覚書を作成する前に土地家屋調査士に測量をしてもらい、隣地との境界を確定させます。
土地家屋調査士が行う測量には確定測量・現況測量の2種類があり、以下の違いがあります。
項目 | 確定測量 | 現況測量 |
---|---|---|
必要なシーン | 土地の売買・物納・複数筆に分筆など、隣地との境界を明らかにしたいとき | 建物の新築・相続時の土地評価など、土地の現況の形状・面積を把握したいとき |
境界の確定 | 確定できる | 確定できない |
費用相場 | 35万円~80万円 | 10万円~20万円 |
測量図の作成期間の目安 | 2ヶ月~3ヶ月 | 1週間 |
越境物の覚書作成で行うのは「確定測量」で、後述する「越境物調査」も加わるため、上記の35万円~80万円より費用は高くなります。
土地家屋調査士は 日本土地家屋調査士会連合会のホームページで最寄りの都道府県を選択し、「会員検索システム」で対象地域を指定すれば、依頼先を見つけられます。
境界確定の測量を行う
依頼する土地家屋調査士が決まったら、確定測量を行いましょう。
確定測量では、依頼者・隣地所有者・土地家屋調査士の3者が立ち会いの元、正確な面積を測り境界を確定します。
一般的に、確定測量は以下の流れで進められます。
- 依頼者・土地家屋調査士が今後の流れを打ち合わせする
- 土地家屋調査士が隣接所有者に挨拶・説明をする
- 土地家屋調査士による事前調査・測量作業・書類作成が行われる
- 隣接所有者と現地で立ち会いをし、測量結果を元に境界を確認する
- 依頼者・隣地所有者で境界確認の合意を得られたら、確定測量図を作成する
- 依頼者・隣地所有者が確定測量図を確認し「筆界確認書」に署名・押印をする
- 土地家屋調査士が境界標を設置する
- 土地家屋調査士が法務局に登記をする
筆界確認書は、隣人同士が測量結果について合意を交わした旨を記す以下のような書類です。
なお、境界確認の立ち会いにかかる所要時間はおおむね10分〜30分程度です。
越境物を特定する
境界確定した後は、土地家屋調査士に越境物調査をしてもらい、越境物を特定します。
越境物調査とは、土地調査家屋士が土地・建物などの工作物の越境状態を確認する調査で、費用相場は約15万円〜30万円程度です。
越境物の特定ができたら、依頼者・隣地所有者に確認をして図面化し、越境物の覚書の作成準備をします。
解消方法について協議する
隣地所有者と越境の解消方法について協議しましょう。
いつ、どのように越境物を解消するかを協議で明確にし、決まった内容を越境物の覚書に反映させます。
なお、越境問題で隣人トラブルに発展すると不動産に告知義務が発生し、売却がさらに難しくなるので隣人所有者との交渉は丁寧に行いましょう。
売却予定の不動産に欠陥がある場合、その旨を売主が買主に対して口頭・書類で伝える義務
隣人トラブルによる告知義務については、以下の記事で詳しく解説しています。
覚書を作成する
越境物の覚書を作成しましょう。
覚書のタイトルは「越境物に関する覚書」「越境解消の覚書」でも構いません。
越境物の覚書の内容には決まったフォーマットがないため、ひな形を参考にして以下4点を記載しましょう。
- 越境物が境界線を越境している事実をお互いに確認した
- 将来、越境物の所有者が建て替えをする際、自己負担で越境の解消をする
- 土地を第三者に売却する際、新たな所有者に契約内容を継承する
- 建て替えを行う時までは、越境物の撤去を猶予する
「いつ、どのように越境物の撤去を行うか」が、前述した協議で決まっていたら、覚書にその内容も反映させます。
越境物の覚書のひな形は以下のとおりです。
引用元:竹内土地家屋調査士事務所
なお、土地家屋調査士に越境物調査を依頼する場合は、依頼者の代わりに作成してもらえるケースが大半です。
越境物を放置する4つのリスク
前述したように、越境物のある物件の売却を検討しているなら覚書は作成しておくべきです。
越境物の存在は、買い手が見つかりにくいだけでなく、越境している土地の所有者・隣地所有者のどちらにとってもデメリットにしかなりません。
この章では、越境物を放置する以下4つのリスクを解説します。
- 撤去請求をされる
- 時効取得されてしまう
- 物件の売却価格が下落する
- 固定資産税を払い続ける
撤去請求をされる
越境物の覚書を作成せず放置すると、撤去請求をされるリスクがあります。
民法第207条では、土地の所有権について以下のように明記されています。
第二百七条 土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。
つまり、越境物が隣地に侵入している状態は、隣人の所有権を妨害しているため「所有権に基づく妨害排除請求権」により撤去請求、もしくは撤去費用の請求が認められます。
自身の土地にある屋根・庭木・ブロック塀などが、いきなり撤去されて費用請求されないよう、早期に越境物の覚書を作成しておきましょう。
時効取得されてしまう
隣人の越境物が自身の土地に侵入している状態が長年続くと、時効取得される恐れがあります。
時効取得とは長期にわたって他人のものを所有し続けると、やがて自分に所有権が与えられる制度です。
たとえば、相続した土地が父親の遺産だと思い、所有し続けた場合、後々「実は親戚に所有権がある土地だった」と発覚したとしても、長年所有していた自分に所有権が移行されます。
時効取得が認められる期間は、民法第162条では以下のように定められています。
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
つまり、所有権について知らなかった場合は10年、知っていたとしても所有期間が20年を経過すると、越境部分の土地の所有権は隣人に移行されます。
越境物の覚書を作成していれば、民法第152条の権利の承認に該当するため、時効取得の進行をストップし、カウントのやり直しが可能です。これを「承認による時効の更新」と言います。
ただし、「承認による時効の更新」はカウントのやり直しをする制度であり、再度10年・20年が経過すると時効取得は成立します。
そのため、時効取得されないためには、10年・20年おきに越境物の覚書の作成が必要になる点は留意しましょう。
なお、時効取得については、以下の記事で詳しく解説しています。
物件の売却価格が下落する
越境問題を放置すると、物件の売却価格が下落する可能性があります。
前提として、越境物があっても買主が合意しているなら売却自体は可能です。
ただし、越境されていると買主には以下3つの不利益が生じるため、売却価格が下落する可能性は非常に高いです。
- 担保評価が低いため、住宅ローンが使えない
- 建築確認申請が通らず、新築の設計に制限がかかる
- 将来的に隣地所有者とトラブルに発展するリスクがある
越境物の存在そのものはマイナス要因にしかならないため、越境物がある物件の売却時は覚書を作成し、価格の下落をできる限り防ぐ必要があります。
固定資産税を払い続ける
隣地所有者の越境物を放置していると、過大に評価された土地の固定資産税を払い続けることになります。
固定資産税は、毎年1月1日時点で不動産などの固定資産を所有している人に納付義務を課せられる税金です。
固定資産税額は「固定資産税評価額×1.4%」で計算され、評価額は国税庁が毎年7月〜8月に公示する1㎡あたりの土地価格の「路線価」 と「土地面積」によって算出されます。
つまり、確定測量図による面積よりも法務局の登記簿の面積が上回っている場合、毎年1月1日を迎えるごとに固定資産税を過払いしている状態となります。
固定資産税は「どちらが土地を使用しているか?」にかかわらず、所有者に対して納付義務が課せられるため、過払いにならないためにも越境物の解消が必要です。
越境物の問題を解消できないなら専門の買取業者に相談する
越境物の問題を解消できないなら、専門の買取業者に売却を相談しましょう。
専門の買取業者なら越境している状態でも、現況のまま売却できます。専門の買取業者は土地家屋調査士など各専門家と連携をとりながら、越境物によるトラブルを解消して買い取った不動産で収益化します。
そのため、越境物のある物件所有者が覚書作成で手間・費用をかける必要がなく、専門の買取業者に相談するだけでワンストップで売却が実現するのです。
もちろん、隣地所有者との交渉や覚書の作成は専門の買取業者が買い取った後に行うため、越境物のある物件所有者が隣人トラブルを心配する必要もありません。
なお、弊社AlbaLink(アルバリンク)は、越境物のある物件をはじめとした訳あり不動産を取り扱う専門の買取業者です。
弁護士や税理士などの専門家とも提携しており、越境問題のスムーズな解決が実現できます。
これまで数多くの問題を抱えた不動産を買い取ってきた実績があり、Google口コミでも多くの高評価をいただいております。
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まとめ
本記事では、越境物の覚書作成におけるメリット・デメリットや作成手順について解説しました。
越境問題が生じている物件は「住宅ローン金利が高くなる」「売却が難しくなる」など、売却活動に悪影響があることは避けられません。
ですが、越境物の覚書を作成しておくとトラブルのリスクなどを回避できるため、放置している状態よりも好条件で売却しやすくなります。
越境物のある物件を、好条件かつ確実に売却するためにも越境物の覚書は作成しておきましょう。
なお、越境物の覚書の作成費用を準備できない方は、専門の買取業者に売却を相談すれば、そのままの状態で買い取ってもらえます。
越境物のある物件の売却にあたって新規でお金をかけたくない方は、専門の買取業者への売却を一つの選択肢にしてみてください。
当サイトを運営している弊社AlbaLink(アルバリンク)も越境物ありの物件を現況買取している買取業者です。
弊社は土地家屋調査士・司法書士・弁護士など、各専門家との連携をとっているため、越境物のある物件でもトラブルのない買取を実現しています。
「隣地所有者と交渉して覚書を作成する自信がない」「測量費用を用意できない」など、越境物の物件の売却にお困りの方は、一度弊社にご連絡ください。
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