所有者不明の空き家が問題になっている
一般財団法人国土計画協会の「所有者不明土地問題研究会最終報告概要」によると2016年時点における所有者不明の土地は約410万ヘクタールにのぼり、このまま何の対策も講じなければ2040年には720万ヘクタールになるのではないかと試算されています。これは、北海道の面積のじつに9割に相当するものです。
そのなかには、誰も居住していない空き家も含まれています。ここでは、いったいなぜ所有者不明の不動産が生み出されてしまうのか、所有者不明の空き家はどのような弊害をもたらすのかについて解説します。
所有者不明の不動産が生まれる理由
一般的に不動産を取得したら、不動産の所在地を管轄する法務局で「登記」と呼ばれる手続きをおこないます。
登記とは、不動産の所在地や面積、建物の構造といった基本的な情報、所有者などの権利関係を登記簿に記載することです。これにより、初めて第三者に対して自身の所有権を主張できるようになります。
ただしこれまで、相続が発生した際に相続人がおこなう「相続登記」は義務ではなく、相続登記をおこなわなくてもとくに罰則はありませんでした。
不動産の名義を被相続人から相続人へと変更する所有権移転登記のこと
そのため、不動産の所有者が死亡した際に相続人が相続登記をおこなわなかったことで、所有者不明の不動産が生み出されてしまうことになったのです。
実際問題として、資産価値が低い地方の土地をわざわざ登記費用を支払ってまで相続したくないと考える方は少なくありません。
しかし2024年3月から相続登記が義務化され、違反者には罰金が科されることになったので、相続発生時には未登記のまま放置しないように注意しましょう。相続登記については、後述の「所有者不明の空き家(空き地)の増加によって変わるルール」の項目で詳しく解説します。
また、「相続人が全員相続放棄をした」「被相続人に身寄りがなく、そもそも相続人がいない」などのケースでも所有者不明の不動産が生まれてしまいます。
一方、相続人の数が多く、共有者のうちの一部が行方不明、もしくは亡くなっているなど所有者の特定が難しい場合も所有者不明の空き家として扱われます。
所有者不明の空き家が増えることによる問題点
所有者不明の空き家が増え続けることで生じる問題は以下の3つです。
- 保安上の問題
- 衛生上の問題
- 税制上の問題・
それぞれの問題について、詳しく見ていきましょう。
保安上の問題
所有者不明の空き家が抱える最大の問題点は、誰も管理する人がいないということです。
居住者のいない空き家は換気や掃除、修繕がおこなわれないことから劣化するのが早い傾向にあります。とくに雨漏りなどによって構造部材が腐朽してしまうと強度が著しく下がり、台風や地震などの自然災害発生時に倒壊して近隣の方に被害を与えてしまいかねません。
また、空き家が犯罪の拠点として使用されることもあります。2016年には、インターネットで不正購入した商品の受け取り先として空き家を利用していた外国人詐欺グループが摘発されました。また、2022年には国際郵便物に紛れ込ませた不正薬物の密輸に空き家を使用していた犯罪グループの男性が逮捕されています。
老朽化した空き家が増えることで近隣住民の迷惑となるばかりか、地域全体の治安をも悪化させてしまう恐れがあるのです。
衛生上の問題
人の管理が行き届かない空き家は、衛生面においても地域に悪影響を及ぼす恐れがあります。
誰も住んでいない空き家は、害虫や害獣にとっては格好の棲み処となり得ます。とくに注意が必要なのは、病気を媒介していることが多いネズミや構造の木材を食べてしまうシロアリです。これらの害虫や害獣が大量に発生すると、空き家のみならず近隣の住宅にも大きな被害をもたらす恐れがあります。
また、動物の糞尿やゴミの不法投棄などによって発生する悪臭によって衛生環境が悪化し、近隣の方の日常生活に支障をきたしてしまうケースも少なくありません。
税制上の問題
毎年1月1日時点における不動産の所有者には固定資産税が課されます。しかし空き家の所有者が不明の場合は徴収が難しく、結果的に自治体の税収が少なくなってしまう恐れがあります。
そこで令和2年度の税制改正では、未登記の不動産であっても使用者がいる場合には、その使用者を所有者と見なして固定資産税を徴収できるようにされました。これにより、所有者の死亡後、相続登記をおこなわずに住み続ける方に対する固定資産税の課税が可能となったのです。
所有者不明空き家も放置できない時代に
これまでは未登記で誰も管理していない空き家や空き地がそのまま放置されるケースは少なくありませんでしたが、近年は増え続ける空き家問題を解決すべく、国も対策に力を注いでおり、さまざまな罰則が設けられるようになりました。
ここでは、適切な管理がなされていない空き家がどのように扱われるのか、所有者に対してどのような罰則が科されるのかについて解説します。
特定空き家へ指定される
空き家のなかでも、以下の条件を満たす場合には「空家等対策特別措置法」に基づき、自治体から「特定空き家」に指定されます。
- 放置をすることで倒壊など保安上著しく危険となる恐れがある
- 衛生上有害となる恐れがある
- 周辺の景観を著しく損なっている
- 周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である
空き家が特定空き家に指定されると、以下のように段階に応じた措置が講じられます。
- 自治体による現地調査
- 所有者への聞き取り
- 所有者への助言・指導
- 所有者への勧告
- 所有者への命令
- 行政代執行(※後述の「行政代執行による解体&代執行費用の強制徴収」で解説)
一般的な空き家の場合は放置をしていたとしても、とくに罰則が科されることはありません。しかし特定空き家に指定されると、自治体からの助言や指導、勧告などに基づいて建物の修繕や庭木の伐採などをおこなわなければならないのです。
また「助言」「指導」「勧告」の段階では法的拘束力はありません。
しかしそれでも空き家の所有者が指示に従わない場合には、現状を改善するように「命令」が下されます。命令の段階になると法的拘束力が生じるため、空き家の所有者はそれに従わなければなりません。もし命令に従わなかった場合には、50万円以下の罰金に処されることがあります。
また、自治体からの命令にもかかわらずに放置を続けた場合には、行政代執行によって強制的に空き家が解体されることになります。
特定空き家に指定されると固定資産税が最大6倍に
通常、居住用家屋が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用されるので、固定資産税が以下のように安く抑えられます。
住宅用地の面積 | 固定資産税額 | 都市計画税額 |
200㎡までの部分(小規模住宅用地) | 固定資産税評価額×1/6×1.4% | 固定資産税評価額×1/3×0.3% |
200㎡超の部分(一般住宅用地) | 固定資産税評価額×1/3×1.4% | 固定資産税評価額×2/3×0.3% |
参照元:東京都主税局「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)」
しかし自治体から空き家の現状を改善するように「勧告」がおこなわれた場合は住宅用地の特例が適用されなくなるため、翌年以降の固定資産税が大幅に上がってしまう点に注意が必要です。
たとえば空き家の敷地面積が150㎡、土地の固定資産税評価額が1,200万円、建物の固定資産税評価額が500万円のケースにおいて、住宅用地の特例が適用されるケースとされないケースとを比較してみましょう。
●土地にかかる固定資産税
「固定資産税評価額×1/6×1.4%」の計算式より、
1,200万円×1/6×1.4%=2万8,000円
●建物にかかる固定資産税
「固定資産税評価額×1.4%」の計算式より、
500万円×1.4%=7万円・合計
2万8,000円+7万円=9万8,000円
●土地にかかる固定資産税
「固定資産税評価額×1.4%」の計算式より、
1,200万円×1.4%=16万8,000円
●建物にかかる固定資産税
「固定資産税評価額×1.4%」の計算式より、
500万円×1.4%=7万円・合計
16万8,000円+7万円=23万8,000円
上記のケースにおいて、自治体から勧告を受けて住宅用地の特例を外された場合には固定資産税が14万円 高くなることが分かります。
行政代執行による解体&代執行費用の強制徴収
前述のように、空き家の所有者が自治体からの改善命令に従わなかった際には自治体による「行政代執行」が認められ、所有者に代わって空き家を解体・撤去できるようになります。所有者が不明となっている空き家の場合には「略式代執行」によって解体をおこなうことが可能です。
所有者が不明の特定空き家において行政が必要な措置をおこなうこと
行政代執行によって発生した解体費用は、所有者が負担しなければなりません。登記簿上の所有者が変更されていないケースであっても、過去の戸籍謄本などから現在管理していなければならない本来の所有者を調べ、その人から徴収します。
なお、略式代執行によって解体工事がおこなわれた場合の費用は自治体の財源から拠出されます。その後所有者が確定できた時点で民事訴訟を提起し、裁判を通じて費用を回収する形です。
所有者不明の空き家(空き地)の増加によって変わるルール
相続登記がなされていないなどの理由によって所有者不明の空き家が増えると倒壊などによって近隣の方に直接的な被害を与えかねず、周辺環境の悪化にもつながりかねません。自治体にとっても固定資産税を徴収できずに税収減につながる、税金で解体せざるを得なくなるといったデメリットがあります。
そこで所有者不明の空き家の数を少しでも減らすべく、以下のルールが新たに設定されることになりました。
- 【2024年4月から】相続登記が義務化
- 【2023年4月から】相続土地国庫帰属法が創設された
- 【2026年4月から】所有者情報変更の義務化
- 管理不全空き家の創設
それぞれのルールの概要について、詳しく解説します。
【2024年4月から】相続登記が義務化
所有者不明の空き家が増える理由のひとつとして、相続発生時の登記が義務づけられていない点が挙げられます。そこで2024年4月1日より、相続した不動産の相続登記が義務化されることになりました。
相続登記の義務化に伴い、相続の開始を知ったときから3年以内に登記をおこなわないと10万円以下の過料が科される可能性がある点に注意が必要です。
また、相続登記をおこなう際には登録免許税を納める必要がある点も押さえておきましょう。登録免許税の税額は、土地・建物ともに以下の計算式で算出できます。
たとえば土地の固定資産税評価額が1,200万円、建物の固定資産税評価額が500万円のときにかかる登録免許税は以下のとおりです。
「固定資産税評価額×0.4%」の計算式より、
1,200万円×0.4%=4万8,000円(建物の相続登記の際にかかる登録免許税)
「固定資産税評価額×0.4%」の計算式より、
500万円×0.4%=2万円合計:4万8,000円+2万円=6万8,000円
相続登記の手続きは自身でおこなうことも可能ですが、よりスムーズに、より確実に済ませるためにも司法書士に依頼することをおすすめします。その場合は、司法書士への報酬として別途8万円ほどの費用がかかります。
なお、相続登記の義務化以前に発生した相続であっても、登記がなされていない場合は申請しなければなりません。
【2023年4月から】相続土地国庫帰属法が創設された
2023年4月27日から始まった「相続土地国庫帰属制度」は、相続や遺贈で取得した不要な土地を国に返還できる制度です。
これまで相続放棄をするには被相続人のすべての財産の権利を手放す必要がありましたが、所有者不明の土地の増加を防ぐべく、不要な土地の権利を放棄できる新たな仕組みが設けられることになったのです。
ただし、相続や遺贈で取得した土地のみが制度の対象であり、自身で購入した土地の返還はできません。またすべての土地に対して国庫への帰属が認められるわけではなく、以下の土地は対象外となる点に注意が必要です。
- 建物が建っている土地
- ため池などが含まれている土地
- 危険な崖がある土地
- 有害物質で汚染されている土地
- 境界が不明瞭など他者と権利関係で争っている土地
- 担保権などが設定されている土地
また、申請する際には土地1筆あたり1万4,000円の審査手数料、土地の返還が承認された際には10年分の土地管理費相当額の負担金(宅地・農地の場合は面積にかかわらず20万円。一部の市街地においては面積に応じて算定)を納めなければなりません。
相続土地国庫帰属制度を利用する流れは以下のとおりです。
- 不動産所在地を管轄する法務局へ相談(事前予約制)
- 申請書類を提出
- 承認通知書が届いたら負担金を納付
制度の利用にあたって細かい要件が定められているため、自身が相続した土地が対象となるかどうかを確かめたい場合には、土地の所在地を管轄する法務局へ相談しに行くとよいでしょう。
【2026年4月から】所有者情報変更の義務化
所有者不明の空き家が増えるもうひとつの要因は、所有者が転居した際に住所変更の登記がおこなわれていないことです。不動産の所有者が分かったとしても、その所在地を特定できずに所有者不明の空き家となってしまっているケースも少なくないのです。
そこで2026年4月より、不動産所有者の氏名や住所が変わった際には2年以内に変更登記の申請をおこなうことが義務づけられるようになります。もし期限内に変更の手続きをおこなわなかった場合には5万以下の過料が科される点に注意が必要です。
管理不全空き家の創設
前述のように、管理が行き届いていない空き家は自治体から「特定空き家」に指定され、状況を改善するように「勧告」されたにもかかわらずに放置を続けると住宅用地の特例が適用されなくなります。
ただし、特定空き家に該当しない限り罰則は科されません。また建物を解体して更地にするとやはり住宅用地の特例が適用されなくなることから、空き家のまま放置という選択をする方は多く、空き家の増加を食い止めることはできませんでした。
そこで2023年の法改正によって新たに設定されたのが「管理不全空き家」です。管理不全空き家とは、このまま放置をすることで特定空き家になる恐れがある建物のことです。具体的には「窓が割れている」「庭に雑草が生い茂っている」「壁に亀裂が生じており倒壊の恐れがある」「建物が長期間使用されていない」などの空き家が対象となります。
建物が管理不全空き家になると住宅用地の特例が適用されなくなるため、翌年以降の固定資産税の負担が大幅に増えます。これまで更地にすることで固定資産税が上がってしまうことを避けたいと考えていた方も、空き家を適切に管理するか、もしくは処分・解体をするかの対応を迫られるといえるでしょう。
もし遠方にある、時間が取れないなどの理由で空き家の管理をおこなうことが難しい場合は売却を検討することをおすすめします。
所有者不明で放置してしまっている空き家は専門の不動産業者に相談しよう
相続登記をおこなっておらず、所有者不明の状態のまま放置してしまっている空き家を売却するには、登記事項証明書や住民票、戸籍謄本などを確認して相続人を確定させる必要があります。
その後、相続人全員の署名と押印がなされた同意書を取得し、自身を不動産の所有者として登記すれば不動産を売却できるようになりますが、手続きに際して相当の時間や費用がかかることから、一般の方がおこなうのは難しいといわざるを得ません。
また、そのような権利関係が曖昧な不動産を売却しようとしても、一般の買手を見つけるのは難しいことから不動産仲介業者には取り扱いを断られてしまうでしょう。
しかし所有者不明の空き家であっても、空き家を専門としている不動産買取業者であれば高確率で買い取ってもらえます。また、所有者不明の空き家を売却する際には売主負担で数十万円もの登記費用がかかりますが、買取の場合は業者が登記手続きの一切をおこなうため、登記費用を負担せずに済むメリットもあります。
所有者不明の空き家をなるべく手間や費用をかけずに売却したいのであれば、専門の買取業者に相談するとよいでしょう。
弊社AlbaLink(アルバリンク)は一般の買手が見つかりにくい「訳あり不動産」を買い取っている専門の買取業者です。所有者不明の不動産の買取にも対応しています。所有者不明の空き家の処分にお悩みの方は、お気軽に弊社までご相談ください。
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まとめ
所有者不明の空き家が増え続ける原因として、相続発生時における相続登記や不動産所有者の氏名・住所変更時における登記が義務づけられていなかったことが挙げられます。しかし所有者を特定できない空き家が増加すると、保安上や衛生面などの観点から周辺住民が被害を被ってしまう恐れがあります。また、所有者不明の空き家を管轄する自治体の税収減にもつながってしまいかねません。
そこで近年、国は所有者不明の空き家問題を解決すべく、相続登記や所有者情報変更登記を義務づける法整備をおこないました。相続登記は2024年4月から、所有者情報変更登記は2026年4月から義務化される予定です。相続登記は相続発生から3年以内、所有者情報変更登記は変更があったときから2年以内に手続きをおこなわないと罰金が科される点に注意が必要です。
相続登記の義務化は過去の相続にも適用されるため、相続登記がおこなわれておらず、所有者不明の空き家を売却する場合には数十万円もの費用をかけて登記手続きをしなければなりません。すべての相続人を確定させる手間もかかります。
そのため、所有者不明の空き家を手間をかけずに手放したい場合は、専門の買取業者に買い取ってもらうとよいでしょう。専門の買取業者に依頼すれば、登記手続きにかかる費用を負担せずに現状で売却が可能です。
弊社AlbaLink(アルバリンク)では、これまでに所有者不明の空き家を数多く買い取ってまいりました。所有者不明の空き家を売却できずにお困りの方は、まずは弊社までお問い合わせください。所有者不明の空き家の売却に精通したスタッフが、売却活動をサポートいたします。