飯能市の空き家問題|現状と対策について市の担当者を取材
人口減少や高齢化が進み、適正に管理されない空き家が社会問題となっています。飯能市も例外ではなく、市内全域に空き家が増えている状況です。
適正に管理されない空き家は、防犯性や衛生・景観などを損ね、地域住民の生活にさまざまな悪影響をおよぼします。
飯能市では、令和2年(2021年)より、「飯能市空家等対策計画」を策定し、空き家の利活用・解消する取り組みを強化していると言います。
今回、飯能市の空き家の現状や対策について、市の担当者にお話を伺いました。
はじめに、飯能市の空き家の現状を教えてください。
飯能市は、市域の約75%を森林が占めており 、特に山間地域の人口減少・高齢化が著しい状況です。
参照元:飯能市 | 市勢概要
そうしたなか、相続人が遠方に居住していることなどの理由により空き家が増加し、適正に管理されない空き家が増えています。
飯能市では、平成28年度(2016年度)に「空き家実態調査」を実施しました。この調査では、市内に899戸、市街地・山間地域を問わず数多くの空き家が確認されています。
引用元:飯能市|飯能市空家等対策計画
実際に、ここ数年は、空き家について市民から相談や苦情が増えています。
例えば、「雑草が繁茂している」「庭木がうちの敷地に越境している」といった環境に関する相談。あるいは、「空き巣被害があり地域の治安が心配」といった防犯面に関する苦情など。さまざまな相談・苦情が寄せられています。
また、山間地域の広い飯能市では、アライグマなどの有害鳥獣が空き家に住み着き、地域に悪影響を及ぼしているケースも少なくありません。
空き家が問題となるケースは、市街地より山間地域のほうが多いのでしょうか?
山間地域のほうが、空き家が問題となりやすい傾向です。これには、主に2つの要因があります。
ひとつは、市街地では不動産取引がたくさんあるので、所有者が不動産屋に相談すれば売買や貸借につながり、建物や土地が利活用されやすいのに対して、山間地域では、そもそも不動産取引自体が少ないこともありますが、所有者が「交通の便が悪いから売っても買い手がつかないだろう」という先入観を持っている場合もあります。それで、建物や土地の利活用が検討されないまま、空き家として放置されてしまうことが多いと感じています。
もうひとつの要因は、山間地域の過疎化にあります。
ご高齢の方がおひとりで暮らしていたところ、入院や介護施設に入所されたり、お亡くなりになられたりする。けれども、その後に家を継承する家族・親族がおらず、空き家になっていく形です。こうしたケースでは、相続登記をされていないことも非常に多く、所有者の調査や確定にかなりの時間を要しています。
飯能市では、どのような空き家対策をおこなっていますか?
飯能市では「飯能市空家等対策計画」を策定し、そのなかで「予防」「活用」「解消」を基本方針として空き家対策に取り組んでいます。
引用元:飯能市|飯能市空家等対策計画
予防
「予防」は、所有者が主体的に建物を管理し、空き家になることを防ぐという視点です。
具体的な取り組みとしては、固定資産税・都市計画税の納税通知書にチラシを同封し、年間約3万5,000通を送付しています。このチラシは、空き家の利活用を提案する内容になっており、所有者や市民に、空き家対策に関する意識を高く持っていただくことを意図しています。
それから所有者が空き家の相談をしやすい体制も強化しました。空き家に関する総合窓口として「移住支援室」を設置したほか、公民館や高齢者サロンといった場所で、相続などをテーマに専門家による講習会も開催しています。
活用
「活用」につきましては、空き家バンク制度を導入しています。
空き家バンクとは、空き家の売却や賃借を希望する所有者から申し込みを受け、市が空き家の利用を希望する人に対し紹介する制度です。
飯能市では、居住や定期滞在(別荘利用等)を検討している方に、空き家バンクに登録された建物・土地を紹介しています。これにより、空き家の利活用で飯能市への移住促進や地域の活性化も目指しているところです。
なお、飯能市では、空き家バンクの利用者に「自治会への加入」もお願いしています。
解消
「解消」では、倒壊や保安上の危険がある特定空家等を対象に、空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)に基づく助言・指導などをおこなっています。
空き家の適正な管理を促すとともに、家の取り壊しや利活用など、所有者の意向を確認しつつ、空き家の解消に努めています。
また、飯能市は、市域がとても広い自治体です。そのため、市内13箇所に設置された地区行政センターとも協力し、空き家の見まわりや、情報共有により、空き家の早期発見・解消に取り組んでいます。
空き家を「売りたい」「買いたい」といった場合は、空き家バンクが利用できるんですね。
おっしゃる通りです。空き家を「売りたい・貸したい」「買いたい・借りたい」といった場合、まずは、所有者・利用(購入・賃貸)希望者ともに、空き家バンクに利用登録 をしていただきます。
所有者から空き家が提供されると、空き家の利用希望者にメール等でお知らせします。利用登録者は、登録された空き家を内覧することができます。
物件の売買や貸借は、地域の不動産屋に仲介していただきます。飯能市では、宅建協会(埼玉県宅地建物取引業協会彩西支部)や不動産協会(全日本不動産協会埼玉県本部県西支部)と協定を締結し、円滑な売買や、賃貸借等を進めています。
空き家バンクに関しては、協会のご厚意で、空き家を買う方・借りる方の手数料がかかりません。通常の売買・賃借ですと買う側・借りる側にも手数料が発生しますが、それがかからないのが空き家バンクを利用する大きなメリットになっています。
引用元:飯能市|空き家バンクについて
空き家対策の進捗状況はいかがでしょうか?
予防面では、納税通知書に同封したチラシがきっかけで、空き家の相談をされる方が見受けられるようになりました。
このチラシは「空き家バンクの登録」を提案する内容になっています。そのため、チラシを見た所有者が空き家バンクについて問い合わせてきたり、チラシを持って相談に来られたりするんですね。
空き家バンクへの登録が難しいケースもありますが、適正管理の必要性を説明したり、市内の不動産屋への相談を促したりする機会にもなり、そういったところで空き家対策に一定の効果があると考えています。
活用面では、空き家バンク制度を開始した平成28年3月1日から令和5年1月末時点までで、55件の成約がありました。
55件の内訳は、市外からの転入が36件、市内の転居が9件、定期滞在(別荘利用等)が10件です。
空き家バンクの成約件数 | 55件 |
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市外からの転入 | 36件 |
市内の転居 | 9件 |
定期滞在(別荘利用等) | 10件 |
解消面では、これまでに空家法第14条による助言・指導にいたったケースが2件ありました。
勧告以上になると、「固定資産税の住宅用地の特例措置(税金の負担を軽減する措置)」を外すなどのペナルティが課されるようになりますので、措置を講じるハードルが高いという部分もあります。
必要があれば、勧告以上の措置を講じる可能性もありますが、その段階にいたるまえに空き家の解消ができるように努めているところです。
空き家対策について、飯能市の今後の展望を教えてください。
増え続ける空き家をいかに食い止め、減らしていくか。市民が安全に、安心して飯能市に住めるように、行政として対策を強化していきたいです。
空き家問題・対策は、まずは所有者が実態を知ることが大切だと思います。放置する危険性を知らずに、空き家をそのままにしているケースも少なくないからです。そのため、飯能市では、公民館や地域包括支援センター・地域の高齢者団体など、高齢者の集まる場で空き家問題・対策について市民が学べる機会を増やしていきたいと考えています。
建物や土地は、所有者自らが適正に管理していくことが基本です。所有している建物や土地をどうするか、まずは所有者自身で検討していただきたいです。
とはいえ、空き家を処分したい、だけどどのようにすればわからないということもありますよね。そうした場合は、近隣の不動産屋に相談したり、市に問い合わせたりしていただければと思っています。
飯能市では、空き家相談の総合窓口として移住支援室を設置しています。その上で、雑草や樹木の繁茂は環境緑水課、樹木が市道に越境などしていれば建設管理課、防犯面であれば生活安全課、建物倒壊のおそれがあれば建築課といったように。相談内容に応じて、問題解決をお手伝いできる体制を整えています。
空き家の処分に悩んだ時は、「そのまま放っておくこと」はせず、ご相談いただければと思います。