借地借家法における立ち退きの5つの正当事由をわかりやすく解説
地主が賃貸借契約を交わしている賃借人に立ち退きを求めるには、「正当事由」が必要であると借地借家法第28条で定められています。
参照元:e-Gov法令検索「借地借家法第28条」
具体的には、以下の3つが挙げられます。
- 建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況
- 建物の現況
- 立ち退き料の申し出
それぞれの正当事由について、詳しく見ていきましょう。
建物の使用を必要とする事情
地主側に土地を利用する必要性があることも、正当事由として認められる要件のひとつです。
具体的には、地主が借地人に貸している土地以外に不動産を所有しておらず、その土地に居住用の家を建てる必要があるなどのケースが該当します。
ただしこの場合にも、借地人に対して立ち退き料という名目で一定の金銭的補償をする必要があります。
建物の賃貸借に関する従前の経過
建物の賃貸借に関する従前の経過で考慮される要素は、以下のとおりです。
- 賃貸借契約に至った経緯はなにか
- 契約時から事情が変更しているか
- 借地契約を継続している家庭での更新料・承諾料の授受の有無
- 賃貸借契約の締結からどの程度の期間が経過しているか
- 借地人の地代の滞納などがあるか
借地人に過失がある場合は、地主都合による立ち退きが認められやすくなります。
詳細は、記事内の「借地人の過失が認められれば立ち退きは可能」をご確認ください。
建物の利用状況
地主側の事情で借地人を立ち退かせられる正当事由には、他にも以下のものが挙げられます。
- 周辺と比較して土地が有効活用されていない
- 底地が再開発予定地に指定された
- 借地人に過失がある
たとえば、ビルや高層マンションが建ち並んでいるエリアで土地上に平屋が建っている場合、敷地を有効活用できているとはいえません。このようなケースでは、地主都合による立ち退きが認められることがあります。
また、底地が都市計画法に基づく再開発予定地に指定されている場合も、借地人に対して土地の明け渡しを求められます。
参照元:e-Gov法令検索「都市再開発法第96条」
その際はやはり借地人に立ち退き料を支払う必要がありますが、土地の所有者には行政から都市計画補償金が支払われます。
なお、公共事業による再開発の場合、借地人は立ち退きを拒否できません。
建物の現況
土地上に建てている建物の老朽化がひどく、地震などの自然災害発生時に倒壊の恐れがある場合には、立ち退きの正当事由として認められることがあります。
地震大国である日本にあって、建物の安全性を確保して賃借人の命を守るのは所有者としての責務であるといえます。
そのため、老朽化した建物を現行の耐震基準を満たすように建て替える具体的な計画があると、地主側の正当事由が認められ、賃借人に立ち退いてもらえる可能性があります。
ただし賃借人に立ち退きを求めるには、賃貸借契約期間満了日の1年前から半年前までに伝えなければなりません。
参照元:e-Gov法令検索「借地借家法第26条」
また、正当事由を補完する意味合いで立ち退き料が必要となるケースが一般的です。
参照元:e-Gov法令検索「借地借家法第28条」
立ち退き料の相場や計算方法は以下の記事に詳しくまとめてありますので、併せて参考にしてください。
立ち退き料の申し出
立ち退き料は、これまで解説した正当自由を補完する役割を持ちます。
たとえば、「貸主がどうしてもその土地が必要になった」というケースの場合、それを正当事由として認めてもらいやすくするための要素です。
正当事由なく立ち退き料だけを支払う場合は通常認められませんが、借地人の合意があれば、立ち退きが成立するケースもあります。
詳細は、記事内の「正当事由がなくても立ち退き料を支払う前提で交渉が可能」で解説します。
借地人の過失が認められると底地からの立ち退きは実現する
立ち退きの正当事由として認められる借地人の過失には、主に以下のものがあります。
- 地代を滞納している
- 近隣トラブルを起こしている
- 賃貸借契約に違反している
それぞれの過失について、詳しく解説します。
地代を滞納している
借地人による地代の滞納は、賃貸借契約の解除事由となり得ます。
ただし契約を解除するには、地主と借地人の信頼関係が大きく損なわれていると裁判所から見なされる必要があります。
借地人が1~2か月地代を滞納しても信頼関係が壊れたとは見なされにくいので、賃貸借契約を解除して立ち退きを求めるのは困難です。
借地人に立ち退きを求めるには、3か月以上地代を滞納しているかどうかがひとつの目安となります。
参照元:e-Gov法令検索「民法第617条」
近隣トラブルを起こしている
借地人が騒音や悪臭などによって近隣の方に迷惑をかけているケースも、立ち退きの正当事由として認められることがあります。
とくに賃貸借契約で近隣の方への迷惑行為に関する事項が定められている場合は、契約の解除が認められやすいでしょう。
弊社のアンケート調査でも「近所迷惑な人の特徴」の1位は騒音となっており、近隣住民が不満を募らせている可能性があります。
ただし、法に違反するなどかなり悪質な行為であるときを除き、近隣トラブルだけで地主と借地人の信頼関係が破壊されたとはいえません。
そのため近隣トラブルが立ち退きの正当事由として認められるには、立ち退き料の支払いが必要となることもあります。
賃貸借契約に違反している
「底地を又貸ししている」「地主に黙って建物の増改築を行った」など、借地人が賃貸借契約に違反する行為をしている場合は、地主側に正当事由がなくても立ち退きを要求できます。
借地借家法も適用外となるため、立ち退き料を支払う必要はありません。
もし借地人に契約違反による立ち退きを通告しても建物を明け渡さないときは、遅延損害金などを請求できます。
借地借家法における立ち退きが認められた6つの判例
ここからは、地主に正当事由があると見なされて立ち退きが認められた以下6つの事例と、認められなかった事例をご紹介します。
- 建物の老朽化により立ち退きが認められた事例
- 貸主が利用するなどの理由で立ち退きが認められた事例
- 再開発などの理由で立ち退きが認められた事例
- 借主の家賃滞納により立ち退きが認められた事例
- 借主の迷惑行為により立ち退きが認められた事例
- 借主の賃貸借契約違反により立ち退きが認められた事例
- 立ち退きが認められなかった事例
どのようなケースで立ち退きが認められるのか、実際の判例を基に読み解いていきましょう。
建物の老朽化により立ち退きが認められた事例
昭和46年11月に建築されたアパートの立ち退きを巡る事例です。
アパートを相続したAさんは入居者であるBさんに対し、老朽化による建物の解体を理由として賃貸借契約の解除を申し出ました。
しかし、Bさんはこれを拒否。やむなくAさんは、100万円または裁判所が相当と認める金額の立ち退き料の支払いを条件として東京地裁に提訴しました。
これに対して、東京地裁はBさんに賃料滞納の事実はなく、Aさんには正当事由があるとはいえないとしながらも、100万円の立ち退き料の支払いをもってBさんに立ち退きを命じました(東京地裁令和2年2月18日判決)。
参照元:一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO判例検索システム」
貸主が利用するなどの理由で立ち退きが認められた事例
土地の賃貸人の自己使用の必要性が認められ、賃借人に土地の明け渡しが命じられた事例です。
学校法人AはBに土地を賃貸借。その後、Bの子のCが賃借人の地位を受け継ぎ、建物を建ててうどん屋を経営しました。
平成2年8月1日に賃貸借契約は法定更新され、平成22年7月31日に契約期間が満了しました。
学校法人Aは老朽化した大学病院などを建て替えるため、Cに土地の明け渡しを要求しましたが、Cがそれに応じなかったことから提訴します。
裁判所はCが土地を明け渡すと自宅ばかりか生計手段が断たれるため影響は甚大であるとしながらも、学校法人Aは大学病院の設置など公共性の高い使命を担っているとし、自己使用の必要性はAの事情が上回ると判断。
しかしC側の事情も切実であることから、立ち退き料の支払いを条件としてAの立ち退きの正当事由を認めました(東京地裁平成25年1月25日判決)。
参照元:一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO判例検索システム」
再開発などの理由で立ち退きが認められた事例
築40年を超えるビルの再開発を目的とし、賃借人に建物の明け渡しを求めた事例です。
A会社は、近接する自社ビルとの一体開発を目的として該当のビルを購入し、賃借人に対して建物の明け渡しを求めます。
しかしそのうち2店舗が拒否したため、A会社は東京地裁に提訴し、立ち退き料を支払う代わりに建物を明け渡すよう申し入れました。
これに対して裁判所は、ビルが老朽化していること、周辺の土地の高度利用化が進んでいて近隣するビルとの一体再開発は一定の合理性があることなどを理由に建物の明け渡しを容認。A会社には一定額の立ち退き料の支払いを命じ、2店舗には建物を明け渡すように命じました(東京地裁平成26年7月1日判決)。
参照元:一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO判例検索システム」
借主の家賃滞納により立ち退きが認められた事例
大家が家賃の滞納をしている入居者に対して契約の解除と建物の明け渡しを求めた事例です。
入居者であるBさんは平成24年2月以降、家賃の滞納が常態化。大家であるAさんは家賃を支払うよう幾度も催促しましたが、それでも支払いがなかったために建物の明け渡しを求めて提訴しました。
Bさんは保証会社が代わりに支払っているから滞納はないと主張しましたが、裁判所は保証会社の代位弁済は賃借人の賃料の支払いではないとしてこれを棄却。Aさんの訴えを認め、Bさんに部屋を明け渡すように命じました(大阪高裁平成25年11月22日判決)。
参照元:一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO判例検索システム」
借主の迷惑行為により立ち退きが認められた事例
賃貸物件に住んでいる他の入居者に対して再三迷惑行為を行った賃借人に部屋の明け渡しを求めた事例です。
大家であるAさんはBさんに部屋を貸すにあたり、「近隣の迷惑となるような行為をしたら賃貸借契約を解除できる」などの内容が記載された賃貸借契約を交わしました。
しかし、Bさんは夜中に他の部屋の玄関ドアをたたくなどの迷惑行為を繰り返す始末。しまいには、他の入居者の退去を招く事態となってしまいました。
AさんはBさんに行動を改めるよう注意しましたが、改善が見られなかったので提訴。裁判所はAさんの訴えを認め、Bさんに部屋を明け渡すように命じました(東京地裁令和3年6月30日判決)。
参照元:一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO判例検索システム」
借主の賃貸借契約違反により立ち退きが認められた事例
一軒家を借りていた賃借人に対し、賃貸借契約の違反を理由に立ち退きを求めた事例です。
大家であるAさんはBさんに対し、動物の飼育禁止を条件として一軒家を貸しました。
しかしBさんはそれを無視し、室内でフェネックギツネの飼育を開始。これを知ったAさんは飼育を辞めるようにBさんに求めましたが、その後も飼育を続けたために建物を明け渡すよう提訴しました。
これに対して裁判所は、賃貸借契約でペットの飼育が禁じられており、再三にわたる注意にもかかわらずに飼育を続けたことは契約違反であると認定。信頼関係が破壊されているといえることから、Aさんの訴えを認め、Bさんに建物の明け渡しを命じました(東京地裁平成22年2月24日判決)。
参照元:一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO判例検索システム」
立ち退きが認められなかった事例
ここまで立ち退きが認められた事例をご紹介してきましたが、地主側に正当事由があっても認められないケースもあります。たとえば、築57年を超える平屋の賃借人に建物の明け渡しを求めた事例です。
夫が亡くなって平屋を相続したAさんは老朽化を理由として、賃借人であるBさんとその娘Cさんに賃貸借契約の解除を求めました。
これに対して裁判所は、該当の平屋は早急な耐震補強工事や建て替え工事が必要とはいえないこと、またBさんが病気を患っていて転居が難しく、居住し続ける必要性があることを理由としてAさんの訴えを棄却しました(東京地裁令和元年12月12日判決)。
参照元:一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO判例検索システム」
借地借家法における立ち退きの正当事由が認められない場合の2つの対策
ここまで解説してきたように、地主側に正当事由があれば借地人に立ち退きを求めることができます。
もし正当事由がなく、賃借人に立ち退きを求められない場合には、以下いずれかの対策を検討するとよいでしょう。
- 正当事由がなくても立ち退き料を支払う前提で交渉が可能
- 底地の売却を検討する
それぞれの対策について、解説していきます。
正当事由がなくても立ち退き料を支払う前提で交渉が可能
前述のように地主が借地人に立ち退いてもらうには正当事由が必要ですが、立ち退き料の支払いを条件として話がまとまった場合にはその限りではありません。
立ち退き料の金額によっては、借地人も納得のうえで立ち退いてもらえることも十分にあり得ます。
ただし借地人への立ち退き交渉は難しく、突然「契約を解除して出て行ってほしい」と申し出てもトラブルにつながりかねません。
そのため借地人へ立ち退きを申し出る際には、直接ではなく弁護士や底地・借地に精通した不動産業者などの専門家を間に介して行うことをおすすめします。
交渉に必要な立ち退き料の金額は決まっていない
立ち退き料の金額は法律では規定されていないので、一概にいくら支払えばよいのかはいえません。地主の正当事由の強さや借地人が土地を利用する必要性、土地を立ち退くことで借地人が被る損害など、さまざまな要素を考慮して決められるためです。
立ち退き料に含まれる費用には、主に以下のものがあります。
- 引っ越し代
- 新居を借りるために必要な経費
- 家賃が上がるときはその差額分
- 借地上で店舗を経営しているときは休業中の営業補償
結局は地主と借地人双方の合意によって立ち退き料は決まるため、弁護士や不動産業者などに相談したうえで借地人との交渉に臨むとよいでしょう。
底地の売却を検討する
家を建てるなど底地を利用したい目的があるものの、借地人に立ち退きを求められる正当事由がないときは売却を検討するのも選択肢のひとつです。
底地を売却した資金で新たに土地を購入すれば、家を建てるなど自由に活用できるようになります。借地人とのトラブルを心配する必要もありません。
底地を売却する方法は、以下2種類です。
- 仲介業者に売却を依頼する
- 専門の買取業者に買い取ってもらう
それぞれの売却方法について見ていきましょう。
仲介業者に売却を依頼する
ひとつ目の売却方法は、不動産仲介業者に底地の売却を依頼することです。
不動産仲介業者は、不動産を売りたい売主と購入したい買主とを結びつけるサポートをしている会社です。
不動産仲介業者に底地の売却を依頼すると、不動産ポータルサイトへの物件情報の掲載やポスティングなどを通じて買主を探してくれます。そうした営業活動を経て見つかった買主と売買契約を交わし、底地を引き渡します。
しかし、底地を仲介で売却するのは困難といわざるを得ません。底地を購入しても、建物を建てるなどの活用がいっさいできないためです。
自由に活用できない底地を購入したいと考える方はほぼいないので、仲介業者に依頼しても買主を見つけるのは難しいでしょう。
なお、底地が売却できない理由は以下の記事でも詳しく解説しています。併せてご参照ください。
専門の買取業者に買い取ってもらう
2つ目の売却方法は、専門の不動産買取業者に底地を直接買い取ってもらうことです。
専門の不動産買取業者には、買い取った底地を高く再販できるノウハウがあります。たとえば、借地人と協力して底地と借地を一緒に売却したり、底地と借地の一部を等価交換して完全所有権の土地にしてから売却したりなどです。
そのため、買主が見つかりにくい底地でも、問題なく買い取ることが可能なのです。
底地を専門の不動産買取業者に売却するにあたり、あなたが借地人と交渉する必要もありません。専門の不動産買取業者があなたに代わって借地人との交渉を行うので、安心して底地を売却できるでしょう。
なお、弊社AlbaLink(アルバリンク)では、2011年の創業以来多くの底地を買い取ってまいりました。借地人との交渉を優位に進めるノウハウも有しているため、安心して売却をお任せください。
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なお、専門の買取業者に底地を売却するメリットや買取業者を選ぶポイントは、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
借地人に底地からの立ち退きを求めるには、「建物が老朽化している」「地主側に土地を利用する必要性がある」などの正当事由が必要です。
しかし地主側に正当事由があっても、借地人に必ず立ち退いてもらえるわけではありません。また立ち退きに際して、一定の立ち退き料を支払わなければならないデメリットもあります。
もしあなたに底地を利用する目的があるにもかかわらず立ち退きの正当事由がない場合には、底地の売却を検討するのも選択肢のひとつです。
底地の売却金額を元手に新たな土地を購入すれば、借地人からのしがらみから解放されて自由に家などを建てられるようになります。
活用方法が制限される底地を購入したいと考える方はいないので仲介での売却は困難ですが、専門の不動産買取業者なら問題なく買い取ってくれます。専門の不動産買取業者には、買い取った底地を活用できるノウハウがあるためです。
弊社AlbaLink(アルバリンク)でも、全国の底地を積極的に買い取っております。借地人に底地から立ち退いてもらう正当事由がない、借地人とのトラブルから解放されたい方は、ぜひ弊社までお気軽にご相談ください。