家賃滞納の取り立てを管理会社にまかせっきりはNG!
管理会社とは、オーナーに代わって賃貸物件の管理をおこなう会社です。
業務内容には主に以下のものがあります。
- 入居者の募集
- 入居者からのクレーム対応
- 賃貸物件の点検
- 共用スペースの清掃
- 退去時の立ち会い、原状回復
- 設備の故障対応
- 家賃の集金代行
自身で賃貸物件の管理を直接おこなうのが難しい場合に、大きな力になってくれる存在といえるでしょう。
しかし、家賃滞納者がいる場合はその限りではありません。
ここでは、管理会社に家賃滞納者からの取り立てを任せるリスクについて解説します。
管理会社は家賃を回収できなくても困らない
管理会社がおこなってくれるのは、家賃滞納者に対して支払いを促す対応だけです。
入居者の家賃の支払いの有無にかかわらず管理会社はオーナーから毎月一定の管理料を受け取れるため、とくに家賃を回収できなくても困ることはありません。
家賃の滞納が発生して困るのは、他でもないオーナーのみなのです。
賃貸物件の入居者が家賃を滞納した際、管理会社に管理を委託している場合は家賃滞納者に対して一応の連絡は入れてもらえます。
入居者が単純に家賃を支払い忘れているだけであれば、この時点で問題は解決できます。
しかし、入居者が病気やケガで働けなくなった、勤務先が倒産したなどの理由によって家賃を滞納しているときは、管理会社が連絡を入れても支払ってもらうのは難しいでしょう。
管理会社は法律上、家賃の取り立てはできない
前述のように、家賃の滞納が発生した際に管理会社がおこなうのは家賃滞納者に対する連絡のみです。
物件の管理を依頼しているのになぜ取り立ててくれないのか、疑問を抱いているオーナーもいるのではないでしょうか。
じつは滞納家賃の回収は、「債権回収」と呼ばれる法律的行為に該当します。
債権回収は原則として弁護士の独占業務であり、弁護士以外の者はおこなえません。
つまり、管理会社は法律上家賃の取り立てができないのです。
弁護士以外の者が営利目的で債権回収をおこなうと、弁護士法第77条に基づいて2年以下の懲役、もしくは300万円以下の罰金刑に処されます。
ただし、法務大臣の認可を受けた債権回収会社には債権回収が認められています。
滞納されている家賃の効果的な取り立てのポイントとは
家賃の滞納が発生しても管理会社では対応してくれないので、オーナー自身か、弁護士に依頼して回収するしかありません。
滞納家賃を効率的に回収するためにも、家賃滞納者に対してどのように取り立てればよいのかを押さえておきましょう。
ここでは、滞納家賃を効果的に取り立てる5つのポイントを解説します。
- 内容証明郵便で通知する
- 連帯保証人にも同時に請求する
- 延滞損害金も忘れず請求する
- 支払い期日を明確に定める
- 弁護士に相談する
内容証明郵便で通知する
入居者が家賃を滞納し、管理会社からの連絡にも応じない場合は、なるべく早い段階のうちに内容証明郵便を送りましょう。
内容証明郵便とは、「いつ」「誰が」「誰に」「どのような内容の文書を送ったのか」を郵便局が証明してくれる特別な郵便です。
内容証明郵便で督促したとしても法的な効力があるわけではありませんが、家賃滞納者に心理的プレッシャーを与えるには有効な方法です。
また、内容証明郵便を受け取った家賃滞納者から回答に関する通知などが送られてくれば、滞納家賃の存在を認めた証拠としても利用可能です。
内容証明の文例
内容証明郵便で家賃の督促をおこなう際には、以下の内容を記載します。
- 差出人と受取人の住所・氏名
- 請求額
- 支払い期限と振込先
- 支払い期限までに滞納家賃を振り込まなければ法的措置を取る旨
- 弁護士にその後の交渉を委任する場合は、今後の連絡は弁護士にするように伝える旨
以下は、滞納家賃の督促時に送付する内容証明郵便の一例です。
また、内容証明郵便には記載する文字に関して以下のルールがある点にも気をつけましょう。
- (縦書きの場合)1行20字以内・1枚26行以内
- (横書きの場合)1行26自以内・1枚20行以内、または1行13字以内・1枚40行以内
- 使用できる文字はかな(ひらがな・カタカナ)・漢字・数字(アラビア数字・漢数字)
- 英語は固有名詞のみ使用可能
連帯保証人にも同時に請求する
賃貸物件を貸し出す際には、連帯保証人を設定するケースが一般的です。
連帯保証人には入居者が家賃を滞納した際に代わりに支払う義務があるため、家賃滞納者が支払いに応じない場合は連帯保証人にも同時に内容証明郵便を送って滞納家賃の支払いを請求しましょう。
また連帯保証人に請求できるのは滞納家賃に留まらず、共益費や管理費などにもおよびます。
ただし、個人の連帯保証人に請求できるのは、賃貸借契約書に定められた「極度額」までです。
滞納家賃が50万円を超えていたとしても、極度額が50万円に設定されている場合は連帯保証人には50万円しか請求できません。
延滞損害金も忘れず請求する
家賃の支払いが遅れた場合、滞納した期間に応じて延滞損害金を請求できます。
延滞損害金は、以下の計算式により算出します。
消費者契約法の定めにより、延滞損害金の年率は最大で14.6%です。
なお、賃貸借契約書に利率の記載がない場合は民法の規定により年3%で計算します。
たとえば、家賃が月10万円、滞納期間が2か月(60日)、賃貸借契約書に延滞損害金に関する利率の定めがない場合における延滞損害金は以下のとおりです。
延滞損害金=10万円×3%×60日÷365日=約493円
滞納家賃の請求時には、延滞損害金も忘れずに請求しましょう。
支払い期日を明確に定める
内容証明郵便によって滞納家賃の督促をする際は、いつまでに支払うのか、期限を明確に設定することが大切です。
「すぐに」や「至急」といった曖昧な表現では、家賃滞納者に心理的プレッシャーを与えにくく、対応してもらえない可能性が高いでしょう。
また、期日までに滞納家賃の支払いがない場合には法的措置を取る旨を記載する方法も有効です。
弁護士に相談する
家賃の督促はオーナー自身でも可能ですが、より確実に回収したい、何度も督促をしているのに耳を傾けてもらえない場合は弁護士に相談して債権回収を代行してもらいましょう。
弁護士に債権回収を依頼すれば、家賃滞納者に督促したり、内容証明郵便を送ったりする手間が省けます。内容証明郵便に弁護士名が記載されているだけでも家賃滞納者には相当の心理的プレッシャーを与えられるので、より回収できる確率を上げられるでしょう。
また、のちの項目で解説するように家賃滞納者に退去を求める際の訴訟においても大きな力となってくれるはずです。
家賃滞納トラブルに関する弁護士費用の相場は10~40万円ほどです。
また、無事に滞納家賃を回収できた際には、回収した金額の10~20%を報酬として支払う必要があります。
家賃滞納トラブルの解決法については、以下の記事でも詳しく解説しています。
違法になる恐れがある取り立て方法に気をつけよう
ここまで、滞納家賃を取り立てるポイントについて解説してきました。
ただし、以下のように度を超えた取り立てをおこなうと家賃滞納者から逆に訴えられかねないため、注意しましょう。
- 夜8時以降、朝7時までの間に取り立てる行為
- 勤務先に連絡する行為
- 玄関などに貼り紙をする行為
- 室内で長期間取り立てる行為
- 支払い義務のない家族などに取り立てる行為
- 部屋の鍵を勝手に取り替える行為
ここからは、違法行為に該当する取り立て方法について詳しく解説します。
夜8時以降、朝7時までの間に取り立てる行為
社会通念上不適切と認められる夜間・早朝の時間帯に家賃滞納者の部屋を訪問し、滞納家賃を取り立てる行為はNGです。
滞納家賃の取り立てを規制する法律は存在していませんが、貸金業法第21条1項では以下のように規定されており、違法行為と見なされる恐れがあるため注意が必要です。
(取立て行為の規制)
第二十一条 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
一 正当な理由がないのに、社会通念に照らし不適当と認められる時間帯として内閣府令で定める時間帯に、債務者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の居宅を訪問すること引用元:e-Gov法令検索「貸金業法第21条1項」
深夜0時過ぎまで滞納家賃の取り立てをおこなった貸主に対し、入居者へ慰謝料を支払うよう求めた判例もあります(福岡簡裁・平成21年2月17日判決)。
勤務先に連絡する行為
家賃滞納者が働く職場や通っている学校などへ電話・訪問し、滞納家賃を取り立てる方法もトラブルにつながりかねません。
やはり貸金業法第21条3項によって以下の行為が禁じられているためです。
正当な理由がないのに、債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所を訪問すること
引用元:e-Gov法令検索「貸金業法第21条3項」
玄関などに貼り紙をする行為
家賃を滞納していることが第三者に分かるよう、玄関やポストなどに貼り紙をして督促する行為も違法にあたる可能性があります。
上記の禁止行為は、貸金業法第21条5項で規定されています。
貼り紙、立看板その他何らの方法をもってするを問わず、債務者の借入れに関する事実その他債務者等の私生活に関する事実を債務者等以外の者に明らかにすること
引用元:e-Gov法令検索「貸金業法第21条5項」
室内で長期間取り立てる行為
滞納家賃を取り立てるべく家賃滞納者の部屋を訪れ、長時間にわたって居座る行為も避けたほうが無難です。
ケースによっては、不退去罪に問われかねません。
貸金業法では第21条4項において居座り行為が禁じられています。
債務者等の居宅又は勤務先その他の債務者等を訪問した場所において、債務者等から当該場所から退去すべき旨の意思を示されたにもかかわらず、当該場所から退去しないこと
引用元:e-Gov法令検索「貸金業法第21条4項」
実際、入居者が退去するよう求めたにもかかわらず、それに応じなかった担当者に対して慰謝料を請求するよう求めた判例もあります(福岡簡裁・平成21年2月17日判決)。
支払い義務のない家族などに取り立てる行為
連帯保証人には入居者が滞納した家賃を支払う義務がありますが、それ以外の家族や親族などに滞納家賃を請求する行為も避けましょう。
貸金業法でも、第21条7項において以下のように債務者以外の者への取り立てを禁止しています。
債務者等以外の者に対し、債務者等に代わって債務を弁済することを要求すること
引用元:e-Gov法令検索「貸金業法第21条7項」
部屋の鍵を勝手に取り替える行為
入居者が滞納家賃を支払わないことを理由とし、部屋の鍵を勝手に取り替えて入れなくすることも不法行為に該当します。
たとえ賃貸借契約書中に鍵の交換に関する条項が記載されていたとしても、社会通念上通常と認められる権利行使の範囲を超えているとして、貸主・管理会社に入居者への損害賠償を認めた判例もあります(札幌地裁・平成11年12月24日)。
家賃の取り立てに応じない場合は、建物明渡し請求で退去を求める
家賃滞納者から滞納している家賃を取り立てるのは非常に難しいといわざるを得ませんが、滞納期間が長引くほど家賃収入が減ってしまいかねません。
家賃滞納者が支払いに応じてくれない場合は、裁判所に建物の明渡し請求訴訟を起こして退去を求める方法を検討するとよいでしょう。
ここでは、建物明渡し請求訴訟の流れについて解説します。
なお、家賃滞納トラブルを抱えている賃貸物件は、そのままの状態で不動産買取業者に売却する手段もあります。
賃貸物件を売却すれば、家賃滞納者への対応や裁判手続きなどを行う必要がありません。
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建物明渡し請求訴訟の流れ
建物明渡し請求訴訟の流れは、以下のとおりです。
- 滞納家賃の支払いを請求
- 賃貸借契約の解除を通知
- 家賃滞納者と交渉して自発的な退去を促す
- 建物明渡し請求訴訟を起こす
- 家賃滞納者に退去を求める
それぞれの流れについて見ていきましょう。
1.滞納家賃の支払いを請求
入居者が家賃を滞納しているとはいえ、いきなり訴訟を起こすことはできません。
まずは前述のように、督促状や内容証明郵便などを通じて滞納家賃を請求します。
2.賃貸借契約の解除を内容証明郵便で通知
督促状や内容証明郵便を送っても入居者が家賃を滞納し続ける場合は、賃貸借契約の解除を内容証明郵便で通知します。
いつまでに滞納家賃を支払わなければ契約を解除するのか、支払い期限を明確に区切って入居者に伝えましょう。
3.家賃滞納者と交渉して自発的な退去を促す
建物明渡し請求訴訟を起こすには相応の費用と時間がかかります。
また、弁護士に依頼しておこなう場合は報酬も支払わなければなりません。
なるべくコストを抑えるためにも、建物明渡し請求訴訟を起こす前に家賃滞納者に自主退去を求めましょう。
その際、滞納家賃の支払い方法や立ち退き時期などについて記載した合意書を作成して当事者間で交わすことが大切です。
4.建物明渡し請求訴訟を起こす
ここまでの過程を通じても家賃滞納者が支払いや自主退去に応じない場合は、裁判所に建物明渡し請求訴訟を起こします。
訴状には、以下の内容を簡潔に記載します。
- 家賃滞納者に滞納家賃の支払いと物件の明渡しを求める旨
- 訴訟を起こすにいたった原因
また、明渡しを求める物件を特定するための資料も必要となるため、事前に準備しておきましょう。
その後、裁判を通じてオーナーの訴えが認められたら、家賃滞納者に対して物件から退去し、建物の明渡しを命じる判決が下されます。
判決までに、6か月~1年ほどの期間がかかることは覚悟しておきましょう。
なお、裁判の途中で裁判官から和解を提示されるケースは少なくありません。
和解によって問題を解決できる場合には、2~3か月ほどで片がつくこともあります。
5.家賃滞納者に退去を求める
裁判の終了後は、再度家賃滞納者に対して自主退去を求めます。
もし家賃滞納者がそれに従わずに居座る場合は、裁判所の強制執行によって家賃滞納者を強制的に立ち退かせることが可能です。
強制執行にかかる費用を負担すべきなのは家賃滞納者ですが、経済的に問題があるために家賃を滞納しているのであり、結局はオーナーが負担しなければならなくなるケースがほとんどです。
強制執行代はケースによって異なりますが、裁判所へ支払う予納金として6万5,000円(東京地方裁判所の場合)、執行業者に支払う費用として10数万円~60万円、家賃滞納者が残していった荷物が大量にある場合はさらに費用がかかる点は覚悟しなければなりません。
保証会社に加入していれば、家賃が保証される
入居者が家賃を滞納する期間が長引くほど、得られる家賃収入は減少します。
また、家賃滞納者が退去しない限り、新たな入居者の募集はできません。
家賃滞納者が自主的な退去に応じてくれない場合は建物明渡し請求訴訟を起こすことで強制的に退去させられますが、それには数十万円以上の費用と半年以上の時間がかかります。
このように、家賃滞納リスクは賃貸物件のオーナーにとってはもっとも深刻な入居トラブルといえるでしょう。
家賃滞納リスクをできるだけ避けたいのであれば、入居条件として家賃保証会社への加入を義務づけることをおすすめします。
保証会社とは、入居者が滞納した家賃を代わりにオーナーへ支払ってくれる不動産業者です。
保証会社への利用料を支払うのは入居者のため、オーナーの経済的負担が増えることはありません。
入居審査や入居者への滞納家賃の督促を代行してくれるほか、建物明渡し請求訴訟費用などを補償してくれる点も大きなメリットです。
ただし保証会社を利用すると入居者の経済的負担が増えるため、思うように入居者が集まらない可能性があります。
また、財務体力のない保証会社の場合には倒産するリスクがある点に注意が必要です。
保証会社が倒産すると入居者が家賃を滞納した際に保証する存在がいなくなってしまうため、新たな保証会社を探すか、入居者に新たに連帯保証人を設定してもらう必要があります。
まとめ
賃貸物件の管理を管理会社に任せていたとしても、家賃滞納者への債権回収はおこなってもらえない点に注意が必要です。
滞納家賃を回収するには、自身で対応するか、弁護士に依頼するかを選択しなければなりません。
また、家賃滞納者が数度にわたる督促にもかかわらずに支払いに応じてくれない場合は、裁判所に建物明渡し請求訴訟を起こすことで強制的に退去を求めることが可能です。
ただし、訴訟費用や弁護士費用などを負担しなければならず、判決が下るまでに半年以上の時間がかかることをデメリットといわざるを得ません。
賃貸物件の入居者が家賃を滞納しており、請求にも応じてくれずに途方に暮れているオーナーがいたら、いっそのこと賃貸物件自体の売却を視野に入れることをおすすめします。
賃貸物件を売却すれば、家賃の滞納リスクに悩まされる必要はありません。家賃滞納者への対応に追われることもなくなります。
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