農業をしない人でも農地相続はできる
農地法では、農地を取得するための条件として農業従事者であることが求められます。
しかし、相続においては、農業をしない人でも農地の相続が可能です。
まずは、農業をしない人が農地相続をするメリット・デメリットを把握し、後悔のない相続を目指しましょう。
農地相続のメリット3選
農業をしない人による農地相続のメリットは、以下の3つです。
農業を始められる
農地相続をきっかけに、農業を始められる点がメリットです。
農業用具・機材をまとめて相続できるため、農作物を育てる知識・技術を習得すれば、すぐに農業を始められます。
農地の一部分を利用して、トマト・キュウリ・キャベツといった家庭菜園も楽しめるでしょう。
借り手がいれば家賃収入を得られる
亡くなった方が農地を第三者に貸し出していた場合、賃貸借契約は相続人に引き継がれます。
そのため、すでに借主がいる農地であれば、安定した家賃収入を得られます。
農地の賃貸相場は月額5,000円〜1万円程度であるため、高い収益性が望めませんが、多少なりとも家計にとってプラスになるでしょう。
また、現段階で借主がいない場合も、新規で農家を探す方法もあります。
令和5年4月の農地法改正により、農地取得の下限値が撤廃されたため、個人・法人による農業の新規参入がしやすくなりました。
農地取得の下限値とは、「農地を買う・借りるなどする場合、最低限これだけの面積を利用して耕作する」という許可基準です。
法改正前の北海道は2ha(6050坪)の耕作が前提条件でしたが、廃止に伴い、現在は小規模であっても農業を始められます。
参照元:農林水産事務次官 |「農地法関係事務に係る処理基準について」の一部改正について
自身が農業をやらない場合、農業従事者または農業経営に興味がある方に声をかけるのも一つの手段です。
農地転用できる
農地転用とは、農地を農地以外の用途に変更することです。
農地転用ができれば、農業以外にも宅地・太陽光発電用地・駐車場経営など活用の選択肢が広がります。
ただし、すべての農地が転用できるわけではなく、農業委員会および都道府県知事の許可を得る過程が必要です。
農地転用できる土地の概要を見ていきましょう。
農地転用できる土地
前提として、農地は国民に食料を安定的に供給するため、大切な資源として扱われています。
そのため、農地には「なんとなく」で農地転用をされないよう、さまざまな厳しい許可基準が設けられているのです。
許可基準の一つとして、農地転用の可否を区分で分けた「立地基準」があります。
立地基準は、以下の5種類で構成されています。
農地の種類 | 特徴 | 転用 |
---|---|---|
農用地区域内用地 | 農用地区域にある生産性が高い農地 | 原則不許可 |
甲種農地 | 市街化調整区域内にある生産性が高い農地 | 原則不許可 |
第1種農地 | 土地改良事業の対象となっている生産性の高い農地 | 原則不許可 |
第2種農地 | 市街地として発展する可能性のある区域内の農地 | 第3種農地では転用できない場合は許可 |
第3種農地 | 市街化、あるいは市街地化が進められている農地 | 原則許可 |
参照元:農林水産省「農業振興地域制度、農地転用許可制度等について」
上記5種類は上から要件が厳しい順になっており、原則として農地転用の許可を得られるのは、
の2つです。
第2種農地
第2種農地は、第3種農地または市街化が見込まれる地域から近い生産性の低い農地です。
第2種農地の内容は、以下のとおりです。
- 街路が普遍的に配置されている地域内にある
- 市街化の傾向が著しい区域に近接しており、規模が10ha未満
- 駅・軌道の停車場・市区町村役場などの公共施設から距離が近い(500m以内)
第3種農地で転用ができない場合に、第2種農地の農地転用は認められます。
第3種農地
第3種農地は、市街地の区域内または市街化が見込まれる地域に近い生産性の低い農地です。
第3種農地の内容は、以下のとおりです。
- 街区の面積に対する宅地化率が40%以上となる区域内に位置している
- 都市計画法上の用途地域が指定されている区域内に位置している
- 駅・軌道の停車場・市区町村役場などの公共施設から距離が近い(300m以内)
市街地として発展する傾向が十分にある農地であるため、許可申請をすれば、農地転用は認められます。
農地相続のデメリット6選
農地相続のデメリットは、以下の6つです。
継続的な管理が必要になる
農地を相続すると、継続的に除草・整備などの管理をする必要があります。
相続したまま農地を放置すると、不法投棄・景観の悪化・害虫の繁殖などが生じ、近隣農地へ悪影響を及ぼすためです。
また、自治体から、利用の程度が著しく低い農地である「遊休農地」とみなされると、固定資産税の補正率がなくなります。
通常の農地の固定資産税評価額は「売買価格×0.55」で算出されます。
遊休農地については0.55を乗じないため、固定資産税評価額が1.8倍となり、結果として固定資産税が増額するのです。
農地の固定資産税については、以下の記事で詳しく解説しています。
農業委員会への届出が必要になる
農地を相続する際には、農業委員会に相続する旨を届け出なければなりません。
農地法第3条の3第1項では、権利の取得があった際には農業委員会への届出が義務付けられているためです。
相続開始から10ヶ月以内に届出を行う必要があり、期限を過ぎると10万円以下の過料が科される可能性があります。
金銭的な損失を被らないためにも、農地を相続して以降は早期に届出をおこなう必要があります。
名義変更の手続きが必要になる
前述した農業委員会への提出とは別に、相続の発生後は相続登記の手続きが必要です。
相続登記とは、亡くなった方から相続人へ名義変更する手続きです。
令和6年4月1日より、相続登記の申請が義務化されており、農地の相続を知った日から3年以内に登記手続きを済ませなくてはなりません。
義務化が施行されるよりも前の相続登記未了の不動産も対象となります。
参照元:法務局|相続登記が義務化されます(令和6年4月1日制度開始)
正当な理由なく遅延した場合、10万円以下の過料が科される可能性があるため、届出・登記は早期に済ませる必要があります。
相続税が発生する
「農地は相続税がかからない」とよく言われます。
これは、亡くなった方が農業を営んでいた農地を相続した際、相続人が営農を継続することを条件に特例で相続税が免除されるためです。
参照元:国税庁「No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」
当然ですが、相続人が農業を継続しないのであれば、上記の特例は適用されません。
農業をしない人が農地を相続すると、取得する費用にくわえて固定資産税などの維持費も発生するため、金銭的な負担は大きくなるでしょう。
なお、上記の特例は家庭菜園のような農地の一部のみを利用する農業も適用外となります。
農地転用できない可能性がある
「農地転用できる土地」でお伝えしたように、農地転用ができない土地もあります。
農地転用できない場合、自身が農業をする以外の選択肢は農家への賃貸・売却の2択しかありません。
農地区分の調べ方は、対象地を管理している農政局に問い合わせることで確認できます。
農地転用できない土地
農地転用できない土地は、以下の3つです。
農用地区域内用地
農用地区域内用地とは、農用地区域に位置する生産性が高い優良農地です。
農用地区域内用地は、農地としての利用が最優先される区域であるため、原則として農地転用はできません。
区域内で農地転用をするためには、農用地からの除外手続きが必要です。
ただ、除外手続きの制度はあるものの、要件が厳しくほぼ認められません。
除外手続きも、年に数回しか受付の期間を設けられておらず、半年〜1年程度の審査期間を要します。
甲種農地
甲種農地とは、第一種農地の中でも市街化調整区域に位置する、とくに良好な営農条件が揃った優良農地です。
甲種農地の内容は、以下のとおりです。
- おおむね10ha以上の規模の集団的な農地
- 大型かつ高性能な農業機械が利用できる
- 土地改良事業などから8年以内
甲種農地も農用地区域内用地と同様、良好な営農条件を備えている農地であるため、原則として農地転用は不許可です。
ただし、例外的に公共性の高い事業などを営む場合は、農地転用が許可されるケースもあります。
第1種農地
第1種農地とは、甲種農地とほぼ同様に生産性が高いと認められる農地です。
- おおむね10ha以上の規模の集団的な農地
- 土地改良事業などの区域内に位置する農地
- 周囲の農地を超える高い生産性が見込める
第1種農地も優良農地であるため、原則として農地転用は許可されません。
例外的に転用可能になることもある
転用後の用途・目的によって例外的に農地転用が可能になるケースがあります。
たとえば、第1種農地で転用が認められる例外規定の一例は、以下のとおりです。
- 農機具格納倉庫・温室・農業用道路農業など、農業を営むうえで必要な施設
- 農業体験施設や農家レストランなど、地域活性化につながる施設
- ごみ焼却場・火薬庫など、市街地への設置が難しい施設
- スーパー・工場など、農業従事者の就業機会の増大に寄与する施設
上記のような転用行為に該当する場合、例外的に農地転用が認められます。
ただし、規定からもわかるとおり転用後の用途・目的は限定的で、単なる宅地としての転用は難しい傾向にあります。
第1種農地・甲種農地・農用地区域内用地に該当する場合は、後述する「農地の処分」を選択するのが賢明です。
相続人同士でトラブルになる
農地の相続に対しての意見が異なる場合、相続人同士でトラブルになる可能性があります。
農地の相続登記をおこなうには、法務局で遺産分割協議書の提出が必要です。
遺産分割協議書とは、亡くなった方の財産を相続人同士でどう分配するかを話し合う遺産分割協議の内容をまとめた文書です。
農地のまま相続したい・農地を転用したい・農地を相続したくないなど、兄弟間で意見が分かれる場合、遺産分割協議が進まないケースがあります。
また、農地の評価額は宅地よりも安価であるため、相続財産の分配が不公平になりトラブルに発展しやすくなります。
農地相続の手順
農地相続をおこなう手順は、大まかに以下の3ステップです。
- 証明書・申請書などの農地相続に必要な書類を用意する
- 法務局で、相続登記の手続きをおこなう
- 農業委員会に農地相続の届出をする
農業委員会への届出・法務局での相続登記は手続きが煩雑であるため、司法書士への依頼も検討しましょう。
上記を司法書士に依頼する場合の費用相場は、10万円程度です。
くわえて、相続登記には、登記手続きをおこなう際に生じる登録免許税の納付が必要です。
登録免許税は「固定資産税評価額 × 0.4%」であるため、農地の評価額が1,000万円であれば、14万円かかります。
トラブルを未然に防ぐためにも、自身以外に相続人がいる場合は、誰が登録免許税などの費用負担をするのか決めておくのがベターです。
農業をしない人が農地を処分する方法4選
農業をしない人の農地相続は、自身が農業を始められる・借主がいれば少額の賃料を得られる以外のメリットがほぼありません。
そのため、農業をしないのであれば、相続前・相続後のどちらかで農地を処分するのが賢明です。
この章では、農業をしない人が農地を処分する方法4選をご紹介します。
相続放棄する
相続の発生から3ヶ月以内であれば、相続放棄によって農地を処分できます。
相続放棄とは、亡くなった方の財産を取得する権利を放棄することです。
相続発生から3ヶ月以内に家庭裁判所で申述をおこなうと、相続放棄が実現可能です。
ただし、相続放棄をすると相続権を失うため、亡くなった方のプラスの財産も取得できなくなります。
農地以外に取得したい相続財産がある場合は、相続放棄をしないほうが賢明です。
相続財産に多額の借金がある・相続人と関わりをもちたくない、という方以外は、次項以降で紹介する「一旦相続して◯◯する」といった手順を踏みましょう。
農地の相続放棄については、以下の記事で詳しく解説しています。
相続土地国庫帰属法を活用する
相続によって取得した農地は、相続土地国庫帰属法で処分できる可能性があります。
相続土地国庫帰属法とは、相続・遺贈などで取得した土地を国に返せる制度です。
一定の要件を満たしたうえで負担金を納付することで、農地を国庫に帰属できます。
一度相続した後に制度を利用するため、相続放棄のようにすべての財産を放棄する必要がありません。
ただし、相続土地国庫帰属制度を利用するにはまとまった資金が必要です。
相続土地国庫帰属制度の利用には、審査手数料1万4,000円・負担金が原則20万円がかかります。
くわえて、農地の種類によっては負担金が割高になります。
一例として、農用地区域内用地はわずか100㎡でも32万円9,000円の負担金が必要です。
負担金の算定式については、法務局の「相続土地国庫帰属制度の負担金」より、ご確認ください。
手元にまとまった資金があり、かつ手続きが苦痛でない方は相続土地国庫帰属制度による農地処分がおすすめです。
相続土地国庫帰属法については、以下の記事で詳しく解説しています。
農業バンクを利用する
農地を探している人に貸し出す手段として、農業バンクを利用する方法もあります。
農地バンクとは、農林水産省が提供する農地の賃貸借を仲介するサービスです。
農地の管理および賃料の回収なども農林水産省に委託できるので、賃貸借の経験がない方でも安全に利用できるメリットがあります。
ただし、農業バンクを利用しても借主が見つかる保証はありません。
農作物を育てる農地には定期的に通う必要があるため、借主の自宅から近いなどの立地条件も重視されます。
立地条件が合わず借受希望者が現れなかった場合には、永久に貸せない可能性もあります。
農地の処分を急いでいない方は、農業バンクを活用して借主を探しましょう。
売却する
これまで紹介した処分方法の中で、農地を売却して処分する方法がもっともスムーズです。
農地の売却方法には、以下3つがあります。
農家に売却する
農地転用をせず、農地のまま農家へ売却する方法です。
所有権の移転だけであれば、買主となる農家が年間150日以上農作業をおこなう・周辺の農地に支障がない、などの条件が揃えば許可が下ります。
参照元:高崎市「農地を耕作するための売買・貸借(農地法第3条、農業経営基盤強化促進法)」
煩雑な転用手続きが必要ないため、農地を購入したい農家がいれば、スムーズに売却は実現可能です。
ただし、農業人口の減少・高齢化による引退が進んでおり、買主となる農家の全体数が少ないという課題があります。
農林水産省の調査によると、2013年〜2022年の約10年の間で農業人口が約194万人から約138万人まで減少したというデータがあります。
買主となる農家が見つからない限り、農地は売却できず管理コストだけがかかり続けます。
農家を見つけられない方は、次項以降の不動産会社の力を借りて農地の処分を実現しましょう。
仲介業者に売却を依頼する
農地転用をおこない、仲介業者に依頼して売却する方法です。
仲介とは、売主・買主の仲介役となり成約のサポートをする、もっともオーソドックスな不動産の売却方法です。
宅地に転用してから売却するメリットは、買主が見つかりやすくなる点です。
不動産市場の大半は居住用物件を想定して不動産探しをする買主であるため、農地転用によって大多数のニーズを満たせます。
スムーズに購入希望者が現れれば、仲介の平均的な売却期間である3ヶ月〜6ヶ月程度で売却が可能です。
ただし、自身で農地転用をおこなうには煩雑な手続きが必要です。
必要書類の不足・申請書の記入漏れなどがあった場合、許可が下りるまで時間がかかるうえ不許可になるリスクが伴います。
行政書士に依頼する方法もありますが、8万円〜11万円程度かかります。
くわえて、農地が買主に好まれる立地でなければ、農地転用をして宅地にしても、売れ残る恐れがあります。
手間・費用をかけず確実に農地を売却したい方は、次項の専門の買取業者への売却を検討しましょう。
農地のまま専門の買取業者に売却する
農地のまま、専門の買取業者に売却する方法です。
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さらに、専門の買取業者が直接の買主となるため、売却にかかる期間が平均1ヶ月とスピーディーに完結するのが特徴です。
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農地の相続でお悩みの方は、いつでも弊社までお問い合わせください。
なお、仲介・買取の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
農業をしない人でも農地相続は可能です。
ただし、農地転用ができなければ、自身が農業を始められる・借り手がいれば少額の賃料を得られる、というメリットしかありません。
農地転用ができる農地であっても、明確な利活用の予定がなければ、転用手続きにくわえて、管理コストなどの負担が伴います。
もし、農地を相続したくないとお考えであれば、農地に強い専門の買取業者への売却をおすすめします。
専門の買取業者は農地の活用ノウハウを多くもつため、転用の可否に関係なく、農地の適正価格での買取が可能だからです。
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