住宅ローンの名義と不動産の名義は別
住宅ローンは、不動産を担保として借り入れる性質上、不動産の名義と無関係ではないとはいえ、住宅ローン契約の名義人は、不動産を名義変更しても変わりません。
不動産の名義変更は、共有持分を移転させる登記さえすれば可能ですが、住宅ローンの名義も一緒に変わらないと、名義を失って借金だけ残ることになります。
不動産の名義変更は無断だと住宅ローン契約違反の可能性
住宅ローンが低金利なのは、借主が所有かつ居住している住宅であれば、自分の家を守るためにきちんと返済することを期待できる(金融機関のリスクが低い)からです。
所有せず住んでもいない住宅のローンを、何十年も支払い続けるとは考えにくいですよね。
ですから、金融機関のリスクが高まる不動産の名義変更は、あらかじめ金融機関の承諾を得るとしている住宅ローン契約が一般的です。
借主は、担保について現状を変更し、または第三者のために権利を設定、もしくは譲渡するときは、あらかじめ書面により銀行の承諾を得るものとします。
無断で不動産の名義変更をしても、金融機関が調査しない限り発覚しないかもしれませんが、だからといって、内緒で名義変更するのは全くおすすめできません。
契約違反になりますし、名義を元に戻すように言われたり、最悪の場合は残債の一括返済を求められることも予想されます。
住宅ローンの名義変更は通常認められない
不動産の名義変更が登記で可能なのに対し、住宅ローンの名義変更は契約内容を変更することになり、契約の当事者である金融機関の承諾が不可欠です。
そして、金融機関から承諾を得るのはかなり難しいと思われます。
なぜなら、借主の収入や住宅の担保価値などを審査したからこそ、高額の融資がされているのであり、その前提を後から変えるのは、金融機関にとってデメリット以外の何ものでもないからです。
もし、金融機関が承諾するとすれば、変更後のローン名義人に、変更前よりも収入や社会的信用が認められるケースですが、その条件では名義変更せずとも借り換え等で対応できるでしょう。
離婚で共有名義から名義変更していない場合のリスク
共有名義で離婚した場合に想定しなければならないのは、他の共有者からの共有物分割請求です。
参照元:e-Gov法令検索|民法第258条
他の共有者に共有解消を請求すること。多くの場合、共有者の一人が持分を買い受けるか、不動産全体を売却して各共有者に売却代金を分ける結果となる。
共有物分割請求は法律で認められた正当な権利なので、共有者間で話し合いがつかなければ裁判所へ訴えられてしまいかねません(共有物分割請求訴訟)。
そして最終的には次のいずれかで共有が解消されてしまいます。
現物分割 | 土地の場合に分筆して複数の土地に分ける方法 |
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代償分割 | 共有者の一人が他の持分を買い受ける方法 |
換価分割 | 不動産を売却して売却代金を各共有者に分配する方法 |
共有物分割請求だけでもリスクですが、共有名義は他の共有者しだいでトラブルになりがちです。
なお、共有物分割請求訴訟について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
離婚相手の住宅ローン滞納
住宅ローンで最も問題なのは、夫婦の一方が連帯債務者・連帯保証人になった状態で離婚してしまうことです。よくあるのは夫婦でペアローンを組んで、互いに連帯保証人になるケースです。
連帯債務者は住宅ローン全体の債務者であり、連帯保証人は住宅ローン全体の債務保証をする立場ですから、どちらも住宅ローンの残債全額に責任を負います。
ただし、連帯債務者である場合は登記簿謄本に記載されますが、連帯保証人である場合は登記簿謄本に記載されません。住宅ローンの契約内容をしっかりと確認しましょう。
共有者の離婚相手が住宅ローンを滞納すると、連帯債務者・連帯保証人に請求され、支払いできなければ住宅は競売にかけられて、家を明け渡すことになるでしょう。
住宅ローンが無くても共有名義は危ない
前述のとおり、常に共有物分割請求されるおそれはあるとしても、離婚で家を出た夫が、妻(または妻と子供)の住む家に分割を請求して、家から追い出そうとする悪意までは考えにくいです。
しかし、共有者は自分の持分のみを第三者へ売却することができ、共有者が離婚相手から第三者へ変わってしまうと、持分を買い取った第三者に事情を考慮してもらう余地はありません。
持分を買い取った第三者は、さらに持分売買を持ちかけてくるかもしれませんし、交渉決裂なら共有物分割請求をしてきますので、結局は自分で持分を買い取らないと家を失うことになってしまいます。
なお、離婚後にペアローンを組んで購入した家を放置することで生じるトラブルについては以下の記事でも詳しく解説しています。
離婚で名義変更する場合の流れと費用
ここでは、名義変更するときの流れと、費用はどのくらいかかるのか説明します。
重要な点として、離婚で共有名義の不動産を名義変更する場合、離婚前よりも離婚後に名義変更したほうが、税金面で有利だということを覚えておいてください。
その理由は、名義変更のための登記が、離婚前は「贈与(対価があれば売買)」での申請となる一方で、離婚後は税金面の優遇がある「財産分与」での申請が可能になるからです。
参照元:法務省|財産分与
財産分与は、離婚で生じる法律効果であるため、たとえ離婚することが確実な状況でも、実際に離婚が成立するまで財産分与での登記申請は認められません。
また、財産分与には除斥期間(請求可能な期限)があり、離婚してから2年が経過すると請求できなくなります。
ただし、それ以降も双方が合意すれば財産分与は可能です。
以降は、財産分与による名義変更を前提に解説します。
財産分与の協議
財産分与では、婚姻中に夫婦の協力で得た財産、つまり夫婦の家計で購入した財産を、その名義にかかわらず夫婦の実質的な共有財産とみなし、基本的には1/2で分けて清算します。
夫婦の家計で購入された住宅は、どのような持分割合でも住宅全体が財産分与の対象となり、預金など他の財産(マイナスの財産も含む)と合計して、共有財産の総額を求めます。
したがって、住宅全体の価値を、売却査定額や固定資産税評価額などから求めておきましょう。
共有名義住宅:時価1,200万円、ローン残債800万円
その他の財産:預金400万円
財産分与の対象=1,200万円-800万円+400万円=800万円
夫と妻がそれぞれ400万円を取得するように分ける
その上で、誰がどの財産をいくら得るのかは協議によって決めますので、一方が住宅を単独名義で取得して、他方が持分を手放し、預金など同じ価値の財産を取得しても問題ありません。
持分を手放す側の財産=預金400万円
実際の財産分与は、上記のようにきれいに分けることはできませんが、共有財産の総額を計算してから、各々1/2ずつを基本に分けます。
離婚時に夫婦で共有している不動産を財産分与する方法は、以下の記事で詳しく解説しています。
協議で決まらなければ調停・審判
財産分与が協議で決まらないときは、家庭裁判所に財産分与請求調停または審判を申し立てます。
調停は家庭裁判所で当事者が話し合うための手続き、審判は家庭裁判所が当事者の主張や事情を考慮して判断を示す手続きのこと。財産分与では、調停でも話し合いがつかない場合、審判へ移行して家庭裁判所が財産分与の内容を決める。
参照元:裁判所|財産分与請求調停
調停または審判で財産分与が決まると、その内容は法的な効力が発生します。ただし、調停や審判は少なくとも数か月はかかりますから、できるだけ夫婦の協議で決まるように努力しましょう。
持分移転登記の申請
財産分与で誰から誰に名義変更するか決まったら、司法書士に依頼して登記申請してもらいます。
【持分移転登記申請書の見本】
必要な書類は以下の通りです。
- 登記原因証明情報(離婚協議書、財産分与協議書など)
- 登記済証または登記識別情報
- 離婚の記載がある戸籍謄本
- 固定資産評価証明書
- 持分を手放す人の印鑑登録証明書(発行後3か月以内のもの)
- 持分を受ける人の住民票の写し(期限は特になし)
- 委任状(司法書士への委任)
なお、司法書士への報酬は、一般的に5万円程度を見ておきたいところです。
名義変更にかかる税金
先ほど、離婚前よりも離婚後に名義変更すると、税金面で有利だと説明しましたので、各税金について離婚前の贈与と離婚後の財産分与で税金の違いを説明します。
以下、名義変更する建物の固定資産税評価額を2,000万円、持分割合を1/2とした場合です。
登録免許税
登録免許税は、贈与と財産分与で税率は変わりません。どちらも税率は2%になります。
参照元:国税庁|No.7191 登録免許税の税額表
不動産取得税
不動産取得税は、贈与による名義変更では税率3%です。
参照元:東京都主税局|不動産取得税
一方、財産分与による名義変更の場合、この3%の不動産取得税がかかる場合とかからない場合があります。
財産分与を受けた不動産に持分を取得した者が居住するときには、中古住宅を取得した場合の軽減措置を受けられることが多いので、軽減措置を受けられるか確認しましょう。
贈与税
贈与での名義変更では、持分を「受け取った側」に税率の高い贈与税が課税されます。
参照元:国税庁|No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
贈与税には基礎控除110万円があり、贈与額から110万円を控除して計算します。
財産分与は、分与された財産が過大(財産分与と認められないほど偏って多額)でなければ、贈与にはなりませんので、この点において財産分与が有利なのは明らかです。
譲渡所得税
財産分与での名義変更では、持分を「手放した側」に譲渡所得税が課税されます。
参照元:国税庁|土地や建物を売ったとき
住宅の所有期間により20.315%〜39.63%と税率は高いですが、持分を取得した費用よりも、財産分与での価額(この例では1,000万円)が高くなって、差益がある場合しか課税されません。
また、譲渡所得税には特例があり、マイホームでは差益が3,000万円まで控除されますので、婚姻中に価格が急騰した住宅でなければ、譲渡所得税を考えなくても大丈夫です。
参照元:国税庁|No.3302 マイホームを売ったときの特例
離婚で名義変更できなかった場合の対策
どうしても離婚時に名義変更できない場合は、単独名義が無理でも連帯債務・連帯保証からは抜けておくことを最優先にしましょう。
共有名義の住宅ローンは離婚トラブルの元!連帯債務や連帯保証を抜ける条件は?
また、離婚相手しだいで将来何が起こるかわかりませんので、予防的措置として次のような対策を取っておくと、少しは保険になります。
財産分与の協議内容を公正証書にしておく
財産分与に限らず、離婚時に決めたことは離婚協議書などの書面で残すべきなのはもちろん、公正証書にしておくと、より一層の証明力がある書面にできます。
離婚協議書などの一般人が作った文書(私文書)を基にして、公証役場の公証人が作成した文書。公正証書は公務員が作った文書(公文書)として扱われ、私文書よりも証明力が高くなる。
参照元:日本公証人連合会|公正証書
公正証書にすると、約束した金銭の支払い期日に違反した相手に、強制執行を行うことが可能になる文言が付与されます。
たとえば、慰謝料や養育費の支払いが約束通り支払われないとき、公正証書で作成しておけば裁判を起こさなくても相手の財産を差し押さえることができます。
公正証書にしたからといって、離婚相手が約束を守る保証はないですが、約束があった事実の証明になりますし、公文書としての存在が心理的なプレッシャーにもなります。
なお、財産分与が調停・審判で決まったときは、家庭裁判所で作成される調停調書・審判書が残りますので、公正証書を作る必要はありません。
住宅ローン完済後の名義変更を仮登記
住宅ローンの関係で離婚時に名義変更ができず、家を出た夫がローンの返済を続けながら、家に住む妻に対して、ローン完済後の名義変更を約束するケースが非常に多いです。
このような場合は、将来の名義変更を予約する意味で、法務局で仮登記をする方法があります。
登記できる権利があっても登記申請の要件を満たせない場合、または将来の権利変動が予定されている場合に、暫定的な記録をする登記。仮登記に対して、実際の権利変動による登記を本登記という。
参照元:e-Gov法令検索|不動産登記法第105条
仮登記をしても、現実に名義変更は登記されていないので、単独名義にはなりません。
しかし、登記の順位としては有効であるため、仮登記後に別の登記(例えば夫が持分を第三者に売却したなど)があっても、仮登記を本登記すると仮登記までさかのぼって優先されるのです。
【仮登記しない場合】
- 離婚時にはローン完済後に夫から妻へ名義変更の約束をした
- 夫が妻との約束を破り第三者に持分を売却して登記された
妻は持分を取得した第三者に対して、夫との約束を理由に権利を主張できません。
【仮登記した場合】
- 離婚時にはローン完済後に夫から妻へ名義変更の約束をした
- ローン完済を条件とする持分移転の仮登記をした
- 夫が妻との約束を破り第三者に持分を売却して登記された
仮登記が本登記されると、仮登記後に生じた第三者への持分売却よりも、先に仮登記しておいた妻の持分移転が優先されます(第三者への持分売却による登記は抹消される)。
仮登記をしてもしなくても、ローン完済後の持分移転登記では、申請に夫の協力が必要なのは変わりませんので注意してください。また、仮登記をしても、仮登記前に設定された金融機関の抵当権には対抗できず、夫がローンを滞納したら競売で家を失うのは同じです。
不分割特約の活用
共有名義である以上、共有物分割を請求される可能性はありますが、共有物分割請求を制限する方法として、共有者による不分割特約があります。
共有者の合意により、共有物分割の請求をしない契約をすること。
参照元:e-Gov法令検索|不動産登記法第59条第6項
ただし、不分割特約は5年以内までしか有効にならず、5年を超える不分割特約は無効です。そのため、5年経過したら再度5年以内の不分割特約を結ぶ(更新する)必要があります。
また、持分の売買や贈与により、不分割特約と無関係な人が新たに共有者となった場合、新たな共有者にも不分割特約を主張するためには登記が必要です。
【不分割特約を登記しない場合】
- 夫と妻が不分割特約を結んだ
- 夫が第三者に持分を売却した
- 持分を取得した第三者が妻へ共有物分割を請求した
不分割特約の当事者ではない第三者に対して、妻は共有物分割請求を拒むことができません。
【不分割特約を登記した場合】
- 夫と妻が不分割特約を結んだ
- 夫と妻の合同申請で不分割特約を登記した
- 夫が第三者に持分を売却した
- 持分を取得した第三者が妻へ共有物分割を請求した
不分割特約が登記されているため、妻は不分割特約を第三者に主張できます。
まとめ
離婚相手を信用して、共有名義のまま離婚するのは禁物です。
もし、離婚相手の人間性や経済力を信頼できても、コロナ倒産が象徴的であるように、いつ経済的な事情が変わるのかは誰にも予測できないですよね。
それを考えると、共有名義にはどうしても避けられないリスクがあることを自覚し、将来起こるかもしれないトラブルを覚悟しなくてはなりません。
仕方なく名義変更しない場合でも、自分でできる対策は取っておきましょう。
もし話し合いがスムーズにいかないなら、自分の共有持分のみを売却して共有関係を解消してしまうのも選択肢のひとつです。
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離婚相手には決して知られることなく売却の手続きを進めてまいりますので、共有持分を売却して共有関係を解消したいとお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。