九州全土が消滅?所有者不明土地が生まれるメカニズム
── 株式会社AlbaLinkでは日々、不動産の売買や活用を中心に事業を行っており、とくに空き家や権利関係が複雑な物件、一般には流通しにくい不動産についてのご相談を数多くいただいております。現場でも当事者間の合意形成が難航するケースが増えていますが、そもそも所有者不明土地とは、法律的にどのような状態の土地を指すのでしょうか。
板垣先生:所有者不明土地というのは、文字通り土地の所有者が確定できない、あるいは所在が把握できない状態の土地のことを言います。
所有者不明と言うと、「山奥の秘境のような場所で、誰の土地だか本当に見当もつかない」ケースを想像されるかもしれません。しかし実のところは、相続人がたくさんいて、10人中9人までは突き止められるのだけれど、残りの1人がどうしても見つからないような土地も所有者不明土地と呼ばれています。
所有者不明土地
不動産登記簿などの公簿を参照しても所有者が直ちに判明しない、または判明しても所有者に連絡がつかない土地のこと。長年、相続登記や住所変更登記が行われず放置されていることが主な原因とされる。
── 大体九州と同じくらいの面積の所有者不明土地があると伺い、衝撃を受けました。本当にそれほどの面積が存在しているのでしょうか。
板垣先生:ええ、その通りです。結局のところ、最後の1人がどうしても見つからないというような山林や原野が全国にはたくさんありまして、それを足し合わせていくと九州の面積ぐらいの規模です。
1つの世代が交代するごとに遺産分割や登記の更新が行われていくのが本来の姿ですが、それを放置すると、世代を経るごとにネズミ算式に話が複雑になります。さらに最近は少子化の問題もあり、お子さんがいないまま亡くなる方もいるため、より権利関係が見えにくくなっている側面もあります。
ネズミ算式の相続
土地の所有者が亡くなった際、遺産分割協議を行わずに放置すると、その子ども、さらに孫へと法定相続人が雪だるま式に増えていく現象。数世代放置するだけで、互いに顔も名前も知らない数十人から100人以上の共有状態になることも珍しくない。
── 山林などの過疎地だけの問題だと思われがちですが、都市部でもこういった事態は起きているのでしょうか。
板垣先生:私が以前見聞きしたケースで印象的だったのが、さいたま市での事例です。大きな駅のすぐ近くで、周辺は商業地として大変開発が進んでいるような一等地ですが、そこは明治から大正時代にかけてのご先祖様名義のままになっていました。
実際にそこには家が建っていて、高齢のご姉弟が住んでいます。このお二人も相続人ですが、何しろ残りの相続人が何十人もいるらしいのです。つまり、何十人も相続人がいる中で、事実上そのお二人だけが住んでいるという状態です。
── 実際に住んでいる方がいても、権利者が別にたくさんいる状態では大変な状況ですね。
板垣先生:そうなんです。何世代にもわたって遺産分割が適切に行われていないため、不動産会社が土地の買い取りをしようにも、住んでいるお二人だけでは決められないという大変困難な問題でした。所有者不明土地というと地方の山奥の土地ばかりを思い浮かべますが、こうした都市部の繁華街のど真ん中でも起こり得る問題なのだと、私自身も衝撃を受けました。
東日本大震災で露呈した実害と、法改正による解決の限界
── 普段は住んでいて何も問題がなくても、いざ土地を売却しよう、あるいは活用しようとした時に初めてトラブルが顕在化することがあります。過去に、所有者がわからないことが社会的に大きな障壁になった事例はありますか。
板垣先生:所有者がわからない問題が顕著に現れたのは、東日本大震災のあとの高台移転事業です。これは、津波被害にさらされやすい沿岸部の集落の方々を、山奥の土地を切り崩して宅地造成し、集団で高台に移住・移転していただくという国家的にも重要な復興事業でした。
しかし、その対象として公的に所有権を取得しようとした山林の多くが、明治時代頃から登記が放置され、すでに亡くなった方の名義のままになっていたんです。
── 復興のための公共事業すら、所有者がわからないせいでストップする危機があったと。それはどのように解決したのでしょうか。
板垣先生:その時は仕方がないので、土地収用法上の不明裁決という制度を使いました。
本来であれば所有者に支払うべき補償金を法務局などに供託したまま、所有者不明の状態で強制的に公的取得をして事業を進めたんです。
不明裁決
公共事業のために土地を収用したいが、真の所有者が不明である場合に、都道府県知事などの裁決を経て、補償金を供託することで国や自治体がその土地の権利を取得できる制度。
── なるほど。国もそうした実害を受けて対策に乗り出していますね。解決策の1つとして、令和6年4月から相続登記の義務化が始まりました。これによる変化は感じられますか。
板垣先生:3年以内に相続登記をしないと10万円以下の過料が科せられるということで、遺産分割や登記を促進する一定の動きにはなっていると思います。まだ始まったばかりの制度ですので適用事例がどうなるかは未知数ですが、ペナルティの存在が親族間での話し合いのきっかけになるでしょう。
また、行政側から見ても平成30年に特別措置法ができ、道路や駐車場、学校、病院、あるいは場合によってはスーパーやコンビニなどの公益性の高い施設であれば、一定の補償金を供託したうえで公的利用できるようになりました。
後日、本当の所有者が現れて正当な補償を求めてきたら、その供託金から支払えばいいという仕組みです。
── 行政側のハードルはかなり下がってきているんですね。一方で、民間企業が開発や買い取りを行う場合はいかがでしょうか。民間では公益性の特例が使えないため、共有持分の調整には苦労しています。
板垣先生:おっしゃる通り、デベロッパーなどによる私的利用となると、公的利用のような特例は使えませんから、やはり粘り強く親戚縁者を探し出して交渉を続けるしかありません。
ただ、民間の取引においても進展はあります。令和3年の法改正で管理命令という制度ができまして、共有者が不明である場合には、裁判所に申し立てて公告を行うことで、共有物の変更や管理が可能になりました。本来であれば、宅地造成など共有物の変更にかかわる行為は他の共有者全員の同意がないとできなかったので、これは実務上かなり大きなハードルでした。
さらに、相続開始後10年を経過した場合には、裁判所に分割請求ができるようになり、どうしてもわからない所在不明者の意見は聞かずに、その人の持分を強制的に分割させることもできるようになっています。
管理命令制度と10年経過後の分割請求
「管理命令制度」は、裁判所の決定により、不明者以外の同意のみで共有物の変更・管理ができる仕組み。「10年経過後の分割請求」は、遺産分割がされないまま10年が経過した場合、法定相続分で画一的に分割できるようにする仕組み。
── それは実務において大きな変化ですね。一連の法整備によって、所有者不明土地問題は徐々に解消に向かうとお考えですか。
板垣先生:いくら過料という罰則を科しても、この問題を完全に無くすのは困難です。しかし、何か利用しなければならないという時に、権利関係の問題で先に進まないという実際の障壁は、一連の立法措置によってだいぶ解決できるようになってきたと評価しています。つまり、所有者不明状態自体は完全にはなくならないものの、実害はコントロールできるようになります。
ただ、土地に関してはこれで少しずつ減っていくかもしれませんが、この問題が本当に恐ろしいのはここからです。私が数十年後に複雑になると危惧しているのは、土地ではなく建物、タワーマンションなどの区分所有建物の問題です。
区分所有建物
分譲マンションなどのように、独立した各住戸(専有部分)ごとに所有権が設定されている建物のこと。廊下やエントランス、外壁などの共用部分は、区分所有者全員で共有する形となる。
土地の次はタワマンが危ない。数十年後に訪れる廃墟化の危機
── 土地の法整備は進みつつあるとのことですが、今後の所有者不明問題はどのように変化すると思われますか。
板垣先生:土地に関しては時間がかかっても地籍調査や法整備によって少しずつ落ち着くでしょう。しかし、今の土地の教訓を応用して考えなければならないのが、分譲マンションです。
日本のマンションの歴史はまだ50〜60年程度ですが、最初の世代のマンションがすでに建て替えの時期を迎えており、難航しているのが現状です。ましてや、現在次々と建っているタワーマンションともなれば、権利関係の数は比較にならないほど多く、何十年か経った後にすさまじい問題を引き起こします。
── マンションですか。確かに大規模修繕や建て替えには住民の合意が必要になりますね。
板垣先生:そうです。タワーマンションには何百人もの権利者がいますし、現代では外国人の富裕層や、実態のわからないペーパーカンパニーのような法人が投資目的で購入しているケースも多々あります。もしマンションが老朽化して建て替えが必要になったとき、「この部屋の本当の持ち主は誰なのか」「連絡先はどこなのか」がわからなくなる点が厄介です。
大規模修繕と建て替えの決議
マンションの資産価値や安全性を維持するための大規模修繕には、区分所有者および議決権の「過半数」または「4分の3以上」の賛成が必要。建物を解体して建て替える場合には「5分の4以上」の賛成が必要だが、所有者不明や連絡が取れない権利者が増えると、要件を満たすことが極めて困難になる。
── 本当にそうですね。外国人オーナーなどの問題は、今後さらに深刻になりそうですね。
板垣先生:そうなんですよ。耐用年数が残っていて、資産価値が高いうちに売り抜けられればよいのですが、現状は耐用年数が残り、ある程度の価格がつくうちに売り抜ける動きが目立っています。
だんだんと老朽化が進み、うまい時期に売り抜けられなかった人たちはどうするのか。誰も住みたがらない、修繕も建て替えもできないボロボロのタワーマンションの所有権だけが残ります。現在の所有者不明土地が示した問題を、さらに何十倍にも拡大したような悲劇が、マンションという閉鎖空間で起こる可能性があります。
究極の解決策は公地公民?私たちが今からできる負動産対策
── そのようなマンションの廃墟化を防ぐために、根本的な解決策はあるのでしょうか。
板垣先生:少し暴論というか、日本では理念的な話になりますが、抜本的なのは所有権という概念から利用権にしてしまうことです。歴史の授業で習った公地公民の発想ですね。
公地公民
飛鳥時代から奈良時代にかけて日本で導入された制度。土地と人民はすべて国家(天皇)のものとするという理念。現代の社会主義国などでも、土地の所有権は国にあり、国民には利用権のみが与えられているケースがある。
── 公地公民ですか。すべて国のものにするということでしょうか。
板垣先生:たとえば社会主義国では、表面上は私有財産制を否定していますから、土地は国の持ち物であり、人々は国から利用権をもらっているに過ぎません。亡くなったり行方不明になったりすれば、最終的に国庫に帰属します。だから、誰のものかわからなくなるという問題が起きません。
日本で今から財産制度を1から作り直すのは困難ですが、この所有権ではなく利用権にするという発想自体は、今のタワーマンション問題などに有効だと思います。
── 具体的にはどのような形が考えられますか。
板垣先生:耐用年数が50年のマンションなら、最初から「50年の定期借地・定期借家(利用権)」として販売してしまうのが明快です。今(2026年)から50年後の2076年には自動的に契約が終わって、住民はデベロッパーに権利を返還する。そして建物を壊して新しく建て替える。
定期借地権・定期借家権
契約で定められた期間が満了すると、更新されることなく確定的に契約が終了し、土地や部屋を地主や家主に返還しなければならない制度。将来の建て替えを見据え、立ち退きトラブルや権利の凍結を未然に防ぎやすい。
── 合理的で腑に落ちました。最後に、この記事を読んでいる読者が、自分の土地や不動産を所有者不明の負動産にしないために、今からできる対策を教えてください。
板垣先生:もしご自身が不動産を引き継ぐ立場、あるいは引き継がせる立場にあるなら、親兄弟が健在なうちにしっかり家族会議を開き、権利関係を早い段階で確定させておくことです。
複数人で共有状態にしてしまうと、後の世代になるにつれて話が複雑になります。「お父さんが死んだらどうするんだ」という話を日頃からご家族で話し合い、しっかりと遺産分割をしておく。あるいは、生前に遺言や贈与で「この土地は長女にすべて渡す。次女三女には現金で」といった、ご自身の意思で決めておくことも大切です。
── 少しでも公平に分けようとして共有名義にしてしまうのは、かえって危険なんですね。
板垣先生:ええ。とくに地方の山林などの資産価値が乏しい土地は、細かく分割しても買い手がつきません。昔から田分け(たわけ)と言うように、農地などを分割すると価値がその分だけ減ってしまいます。ある程度まとめて1人に権利を移すことを検討しましょう。
── お金にならない土地こそ、放置せずに生前のうちに1人に権利をまとめておくことが重要なんですね。もし権利が複雑に絡み合ってしまった場合は、弊社のような専門業者に早めに相談していただくことも解決の第一歩になりそうです。本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。
株式会社AlbaLinkは東京証券取引所のTPM市場に上場している不動産会社です。


