共有持分を放棄する注意点
持分の放棄を検討する前に、知っておきたい注意点を説明しておきます。
最も重要なのは、持分放棄をするだけでは何も変わらず、きちんと登記をして権利関係を整理しないと、本当の意味で持分を放棄したことにはならないという点です(持分放棄の法的効果は後述します)。
ケースバイケースではありますが、他にも次のような注意点があります。
相続放棄すると共有持分だけの放棄は不可
相続したくない財産・債務がある場合、家庭裁判所手続によって相続を放棄できます。
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったとみなされ、その結果、相続人ではなくなるので遺産分割に参加することもありません。
相続放棄では、相続したくない不動産の持分だけを放棄できないので気を付けましょう。
分譲マンションならではの注意点
一般的に、分譲マンションでは建物(専有部分)と敷地の利用権が一体となって、専有部分だけの持分放棄や、敷地利用権だけの持分放棄ができないようになっています。
(分離処分の禁止)
第二十二条 敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
つまり、専有部分の持分を放棄すると、一緒に登記されている敷地利用権の持分も放棄することになるのですが、全てのマンションがそうとは限りません。
古いマンションの中には、専有部分と敷地利用権が別々に登記されている物件があり、その場合は、専有部分の持分放棄と、敷地利用権の持分放棄の両方が必要です。
共有持分放棄よりも共有持分売却のほうがいい
共有持分を放棄しても、放棄した人だけでは登記できないばかりか費用もかかり、他の共有者に税金を負担させる結果となります。
だとすると、同じく登記と費用がかかる持分売却と比べて、放棄のメリットはどこにあるのでしょうか?
売却では、手元にお金が残りますので、その点において持分放棄にメリットはありません。
共有持分を放棄したい理由
人それぞれ持分を放棄したい理由があり、一概に言えるものではありませんが、例として次のような理由が考えられます。
固定資産税を負担したくない
不動産の固定資産税は、持分がある限り納税義務者として逃れられません。
しかも、深刻なのは納税義務者の代表者になっている場合で、納付書が送られてきたら納付するしかない一方で、他の共有者が持分に応じて負担してくれないと最悪です。
他の共有者との関係によっては、毎年請求するのも嫌になり、いっそのこと持分を手放して共有から抜けたいと思うのも無理はありません。
共有不動産に使い道がない
不動産に活用方法があり、理想的には収益があれば、持分を放棄したいとは思わないでしょう。
しかし、遠隔地や地方でどうやって活用したら良いかわからない、林野や農地で使いたくても使えないなど、持っていても意味がないと感じることはあります。
使い道がなく、固定資産税の負担もあるとなれば、どうしても放棄したくなりますよね。
共有不動産を使いたくても共有者が反対している
共有不動産が面倒なのは、自分一人の不動産ではないため、他の共有者の意見を無視できないことです。
民法は、不動産の管理方法を過半数同意、変更行為(処分行為)を全員同意と定めており、おおよそ考えられる通常の活用方法は、他の共有者の同意が必要です。
したがって、意見の衝突により不動産が硬直化してしまうと、持分を放棄したくなります。
不動産の管理ができない
共有者の誰かが使用している不動産は、その使用者が管理することで保たれますが、空き家や更地になってしまうと、途端に放置するリスクが高まります。
さらには、不動産を管理できないことで、近隣住民に迷惑をかけてしまうかもしれず、その上、放火など犯罪に利用されることがあっては困りますよね。
持分を放棄したからといって、放置された不動産の状況が改善されるわけではありませんが、少なくとも所有者としての管理義務は無くなります。
共有者との仲が悪い
考えようによっては、このケースが放棄したい理由のトップかもしれません。
仲の悪さも様々だとはいえ、共有していること自体が気に入らないほど険悪になると、事実上で何もできず、単に固定資産税を負担していくだけの不動産になります。
とにかく共有を解消したい!と思うとき、その背景に共有者との不仲があるケースは多いです。
共有持分放棄の法的効果
共有持分の放棄は、誰でも自由に行うことができるのでしょうか?
また、持分を放棄すると、法律上でどのような効果を伴うのでしょうか?
ここでは、持分を放棄することについて、民法の条文も交えて解説します。
共有持分放棄は単独で可能
持分の放棄は、自分の意思だけで行いますから、相手が存在しない法律行為です。
ということは、他の共有者の同意は不要になり、いつでも自己判断で放棄するか決められます。
ただし、心の中で持分を放棄したと思っていても、他の共有者は放棄されたことを知ることができず、登記上で共有であることも変わりません。
ですから、放棄したことを他の共有者へ知らせる必要があるだけではなく、登記もしておかないと、対外的には何も変わらないということです。
放棄された共有持分は他の共有者に帰属する
民法の規定により、放棄された持分は他の共有者に帰属します。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。引用元:民法第255条
この場合の「帰属」とは、他の共有者が放棄された持分を取得するのと同じです。
他の共有者が一人なら、その共有者が単独所有することになりますが、他の共有者が複数いると、他の共有者は持分の割合に応じて放棄された持分を取得します。
【Aが持分1/2、Bが持分1/3、Cが持分1/6のとき、Aが持分1/2を放棄した場合】
Bの持分1/3とCの持分1/6は、B:C=2:1なので、
Bが取得する持分=Aの持分1/2×2/3=2/6=1/3
Cが取得する持分=Aの持分1/2×1/3=1/6
となり、
持分放棄後のBの持分=1/3+1/3=2/3
持分放棄後のCの持分=1/6+1/6=1/3
に変わります。
なお、不動産が共有である以上、持分の放棄は共有者の誰でも可能ですが、最後の一人は単独所有者になって放棄することができません。
そのため、持分の放棄は「早い者勝ち」とも言われています。
持分放棄の費用と税金
持分を放棄しても、登記をしなければ対外的には何も変わらないと説明しましたが、登記することで権利移転が生じ、税金もかかってきます。
登記費用
持分放棄による登録免許税は、次の計算式で求められます。
登録免許税額=固定資産税評価額×2%×持分割合
固定資産税評価額が1,000万円、持分割合が1/2だとすると、1,000万円×2%×1/2=10万円
その他に、登記を司法書士に依頼すると、3万円から5万円程度の報酬が発生します。
これらの費用を誰が負担するかについては、共有者間の協議で決めるのですが、持分の放棄とは、ある意味で持分を他の共有者に押し付ける結果となりますので、持分放棄者の負担とすることが多いようです。
固定資産税
固定資産税は、1月1日時点の所有者が納税義務者です。したがって、持分を放棄してもその年の納税義務者であることは変わりません。
しかし、持分を放棄した後まで固定資産税を負担するのは不公平ですから、持分放棄者が負担すべき固定資産税を、日割り計算で精算するのが通常です。
【Aが持分1/2、Bが持分1/2、固定資産税24,000円、3月31日にAが持分を放棄した場合】
Aが年間で負担する固定資産税=24,000円×1/2=12,000円
持分放棄までに負担すべき3か月分の固定資産税=12,000円×3/12=3,000円
Aが固定資産税12,000円を負担していたら、BからAに9,000円を戻す
Aが固定資産税12,000円を負担する前なら、AからBに3,000円を渡す
このように、放棄するまで(所有していた期間)の固定資産税を負担します。
贈与税
放棄された持分の取得者には、贈与があったとみなされる扱いです。
贈与税の基礎控除110万円を超える場合は、翌年に申告して贈与税を納付しなければなりません。
贈与額(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | なし |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
※一般贈与財産の場合
【Aが持分1/2、Bが持分1/2、固定資産税評価額1,000万円、Aが持分を放棄した場合】
Bが納付する贈与税=(1,000万円-110万円)×40%-125万円=231万円
持分放棄のトラブル原因の一つに、贈与税の問題があり、他の共有者が望んでいないのもかかわらず持分の放棄がされると、持分の取得者は税率の高い贈与税を納付しなくてはならないのです。
贈与税の支払いで揉めるくらいなら、持分売却したほうが気持ちは楽でしょう。
不動産取得税
贈与税の他にも、放棄された持分の取得者には、不動産取得税の納付義務が生じます。
不動産取得税=固定資産税評価額×3%×持分割合
※本則税率4%、令和6年3月31日まで住宅と土地は3%
固定資産税評価額が1,000万円、持分割合が1/2だとすると、1,000万円×3%×1/2=15万円
もうおわかりかと思いますが、放棄した人が負担するとしても登録免許税・司法書士報酬なのに対し、取得した人は贈与税と不動産取得税を負担しなければならず、この点をどのように考えるかでしょう。
いらない持分を押し付けられ、高額な税金負担まであると、他の共有者との関係悪化は必至です。
持分放棄の登記
持分放棄の登記は、売買などと同じく持分移転登記によって行いますが、登記申請は慣れていないと難しく、司法書士へ依頼するのがベストです。
登記の申請者
持分放棄は自分一人の意思でできても、登記は他の共有者との共同申請です。
前述のとおり、放棄したことを他の共有者に知らせ、登記へ協力してもらわなくてはなりません。
必要書類
持分放棄による持分移転登記の必要書類は次のとおりです。
- 登記申請書
- 登記原因証明情報
- 登記識別情報または登記済証
- 固定資産評価証明書
- 持分を放棄した人の印鑑登録証明書
- 持分を取得した人の住民票
持分放棄の場合、登記原因証明情報となる契約書等がないので、司法書士に作ってもらいます。
他の共有者が協力してくれない場合
登記に協力を得られないと、登記申請ができず登記上は共有のままです。
この状態は、現実に起こった持分放棄と、登記記録が合致していないため、登記の当事者から他方の当事者に対し、登記を請求する権利があるとされています。
具体的には、登記引取請求訴訟により確定判決を得られると、持分の放棄者が単独で登記申請できるようになるのですが、訴訟をしてまで放棄したいのか考えるべきでしょう。
共同申請で行われる登記において、登記への協力を拒む当事者がいる場合、裁判所から「登記手続せよ」とする判決を出してもらうための訴訟。
まとめ
- 持分放棄は自分の意思で可能だが他の共有者に通知が必要
- 持分を放棄しても登記しなければ実質的に何も変わらない
- 持分を放棄すると他の共有者が贈与税と不動産取得税を負担する
いらない持分でも、放棄するよりも売却するほうがお得なので、どうしても放棄しか選択肢がないのか、良く考えて答えを出さないと後悔します。
また、放棄することも権利のうちだと思うかもしれませんが、他の共有者に迷惑がかかることまで考慮しなければ、後々までトラブルの元になるでしょう。
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