「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」で譲渡所得から3,000万円控除される
空き家を売却して利益(譲渡所得)が発生した場合、その利益に対して「所得税」「住民税」「復興特別所得税」と呼ばれる税金が課せられます。これら3種類の税金を総称して「譲渡所得税」と呼びます。
譲渡所得税を算出するには、まず空き家の売却時に発生した譲渡所得を以下の計算式で求める必要があります。
取得費は空き家の購入時にかかった購入代金や不動産取得税などの費用、譲渡費用は空き家の売却時にかかった仲介手数料や印紙税などの費用のことです。
相続で取得した空き家を売却した際、一定の条件を満たせば利益(譲渡所得)から3,000万円を控除できる特例を利用できるので、譲渡所得が3,000万円に満たない場合は譲渡所得税を納める必要はありません。
これを「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例(以下、空き家特例)」といいます。
参照元:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
空き家の売却時にかかる譲渡所得税の計算方法については、後述する「空き家の3,000万円控除の特例を利用した場合の計算例」で詳しく解説するので、合わせて参考にしてください。
空き家特例の適用要件は細かく定められている
空き家特例を利用するには、以下3つの要件をすべて満たさなくてはなりません。
- 相続した空き家に関する要件
- 売却期限に関する要件
- 売却時のその他要件
国税庁のホームページでチェックシートが公開されているので、相続した空き家が特例の対象かどうかを事前に確認しておきましょう。
参照元:国税庁「相続した空き家を売却した場合の特例チェックシート」
ここからは、空き家特例の適用要件を大きく3つにわけて詳しく解説していきます。
相続した空き家に関する要件
空き家特例が適用されるには、相続した空き家が以下5つの要件を満たしている必要があります。
- 被相続人が1人で暮らしていたこと
- マンションやアパートなどの区分所有建築物でないこと
- 相続から売却まで誰も居住・利用していないこと
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 耐震基準を満たしている、もしくは更地であること
このうち、とくに気をつけたいのは「耐震基準」に関する要件です。現行の耐震基準は昭和56年6月1日に改正された建築基準法に基づくもので、「新耐震基準」と呼ばれています。それに対して昭和56年5月31日以前に建築確認を受けた建物は「旧耐震基準」と呼ばれて区別されています。
空き家特例が適用されるのは昭和56年5月31日以前に建築された空き家であり、現行の耐震基準を満たしていないケースがほとんどです。そのため、空き家特例を利用するには空き家に耐震補強工事を施して耐震基準適合証明書を取得する、もしくは解体して更地にする必要があるのです。
耐震補強にかかる費用相場は150万円前後、解体費用の相場は100~300万円ほどです。空き家特例を利用するには、一定の費用が発生する点を押さえておく必要があるでしょう。
売却期限に関する要件
空き家特例には、以下2つの売却期限が設けられている点にも注意が必要です。
- 特例の適用期限である2023年12月31日までに売却すること
- 被相続人が亡くなった日(相続発生日)から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
たとえば、2020年3月3日に相続した空き家の場合は2023年12月31日までに売却すれば空き家特例を利用できます。
ただし、空き家特例自体の適用期限は2023年12月31日に設定されているので、2023年3月1日に相続で空き家を取得した場合は3年後ではなく、2023年中に売却しなければなりません。
売却時のその他要件
空き家特例のその他の要件として、以下2点が設定されている点も押さえておく必要があります。
- 空き家の売却代金が1億円以下
- 親子や夫婦といった特別な関係の人以外への売却であること
相続した空き家と土地の売却代金の合計が1億円を超える場合、空き家特例は利用できません。複数に分けて売却するときや他の相続人との共有名義のまま売却するケースでは、それぞれの売却金額の合計で判定されます。
また、空き家の売却相手が親子や夫婦、親戚などの場合も空き家特例を利用できない点に注意が必要です。
条件を満たせば被相続人が老人ホームに入居していた場合も適用される
原則として、被相続人が1人で暮らしていた空き家でなければ空き家特例は適用されません。ただし、被相続人が相続開始直前まで老人ホームに入居していた場合は、以下の要件を満たすことで空き家特例の対象となります。
- 被相続人が要介護認定、要支援認定を受けていたこと
- 被相続人が老人ホームへの入居直前まで該当の家屋に住んでいたこと
- 被相続人が老人ホームへ入居する直前に他の居住者がいなかったこと
- 被相続人が老人ホームへ入居したあとで他者の居住用や事業用として当該家屋が使われていなかったこと
- 被相続人が相続開始直前に老人ホームへ入居していた場合は2019年4月1日以降の売却であること
参照元:国税庁「No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」
共有状態の空き家なら土地と家屋がセットでなければ適用されない
複数の相続人の共有で空き家を相続してから売却する場合、空き家特例の要件を満たしていれば共有名義人のそれぞれが3,000万円控除を利用できます。
たとえば、空き家を兄と弟の共有で相続して売却した場合の控除の上限は6,000万円です。ただし、特例の適用される売却代金の合計金額は相続人の人数にかかわらず、「売却時のその他要件」でも述べた通り1億円までです。
また、土地と家屋を合わせて相続しなければ空き家特例が適用されない点に注意しましょう。兄が土地を弟が家屋を相続し、2人で協力して売却したとしても空き家特例は利用できません。
被相続人の妻が土地を、子が家屋を相続し、母の相続発生時に子が土地を受け継いで売却するケースでも、土地と家屋をセットで相続していないため、空き家特例は利用できないのです。
参照元:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
空き家の3,000万円控除の特例を利用した場合の計算例
それでは、空き家特例を利用するとどのくらい譲渡所得税の節税につながるのでしょうか。ここからは、空き家特例を利用したケースと利用しなかった場合における譲渡所得税の違いについて見ていきましょう。
譲渡所得税は、以下の計算式で求めます。(譲渡所得の計算については、【「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」で譲渡所得から3,000万円控除される」】でも軽く触れた通りです。)
譲渡所得税=(譲渡所得-特別控除)×税率
譲渡所得に課せられる税率は、売却する不動産の所有期間によって以下のように異なります。
所有期間 | 所得税率 | 住民税率 | 復興特別所得税率 | 合計 |
---|---|---|---|---|
5年以内(短期譲渡所得) | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
5年超(長期譲渡所得) | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
相続した空き家を売却する場合は、被相続人の所有していた期間も受け継がれます。
また、取得費に算入される不動産の購入代金は土地と建物とで求め方が異なる点に注意が必要です。土地は購入代金がそのまま取得費となりますが、建物は購入時から売却時までの間に経年劣化した価値分を「減価償却費」として購入価格から差し引く必要があります。
減価償却費の求め方は以下のとおりです。
経過年数は建物の築年数ではなく所有期間のことで、償却率は木造住宅が0.031、鉄筋・鉄筋コンクリート造のマンションが0.015など建物の構造ごとに定められています。
たとえば、以下の条件の空き家を売却した場合の譲渡所得税を求めていきましょう。
売却価格 | 5,000万円 |
---|---|
譲渡費用 | 100万円 |
土地の購入価格 | 3,000万円 |
建物の購入価格 | 3,000万円 |
構造 | 木造(償却率0.031) |
経過年数 | 30年 |
まずは取得費を求めるため、建物の減価償却費を算出します。
「建物の購入金額×0.9×償却率×経過年数」の計算式より、
建物の減価償却費=3,000万円×0.9×0.031×30年=2,511万円
よって取得費は以下のようになります。
次に、譲渡所得を以下のように算出します。
「空き家の売却価格-取得費-譲渡費用」の計算式より、
譲渡所得=5,000万円-3,489万円-100万円=1,411万円
最後に譲渡所得税を計算します。空き家特例を利用した場合としなかったときとで比較してみましょう。
空き家特例を利用すると譲渡所得から3,000万円を控除できるので、譲渡所得税は以下のようになります。
「譲渡所得税=(譲渡所得-特別控除)×税率」の計算式より、
譲渡所得税=(1,411万円-3,000万円)×20.315%=0円
一方、空き家特例を利用しなかった場合の譲渡所得税は以下のとおりです。
「譲渡所得税=譲渡所得税×税率」の計算式より、
譲渡所得税=1,411万円×20.315%=約286万6500円
このように、空き家特例を利用するのとしないのとでは、納めるべき譲渡所得税額に大きな違いが生じます。
相続した空き家を売却する場合は節税につなげるためにも、空き家特例を利用できるかどうかを確認することをおすすめします。
空き家特例の手続きの流れ
ここからは、空き家特例を申請する際の手続きの流れについて見ていきましょう。空き家特例の申請は、以下の流れでおこないます。
- 自治体窓口にて「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を申請する
- 確定申告をおこなう
それぞれの手続きについて、詳しく解説します。
自治体窓口にて「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を申請する
空き家特例を利用するには、まず空き家の所在地を管轄する自治体の建築関連の窓口で「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を申請する必要があります。
後述する必要書類を揃えて申請したのち、被相続人居住用家屋等確認書が交付されるまでの目安期間はおおよそ1週間です。
必要書類
空き家特例の申請に必要な書類は以下のとおりです。
- 被相続人居住用家屋等確認申請書
- 被相続人の住民票除票の写し
- 申請する相続人の住民票の写し
- 家屋またはその敷地等の売買契約書の写し
- 電気、水道、ガスの使用中止日が確認できる書類
- 家屋取壊し後の被相続人居住用家屋の閉鎖事項証明書の写し(家を取壊す場合)
なお、被相続人が老人ホームへ入居していた場合は、介護保険被保険者証、老人ホームの入居契約書の写し、老人ホームの外出・外泊等の記録も必要です。
被相続人居住用家屋等確認申請書は国土交通省のホームページからダウンロードが可能です。
参照元:国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)」
また必要書類は自治体によって多少の違いがあるので、申請前に自治体の窓口にて確認しておくことをおすすめします。
確定申告をおこなう
被相続人居住用家屋等確認書が交付されたら、空き家を売却した翌年2月16日~3月15日までの間に、相続人の住所地を管轄する税務署で確定申告をおこないます。
確定申告をしなければ特例は適用されません。
必要書類
確定申告時に税務署へ提出する必要のある書類は以下のとおりです。
- 被相続人居住用家屋等確認書
- 確定申告書
- 譲渡所得に関する明細書
- 登記事項証明書等
- 耐震基準適合証明書
- 不動産売買契約書の写し
なお、近年は不動産売却時の特例もe-Taxで申告できるようになりました。画面の指示に従って入力していけば最終的な金額を自動計算してくれるので、確定申告に慣れていない方でもスムーズに申請できるでしょう。
税務署に提出する必要のある書類は、イメージデータ(PDF形式)での提出が可能です。
参照元:e-Tax「添付書類のイメージデータによる提出について」
空き家の3,000万円控除と併用できる特例もある
不動産売却時に利用できる特例は、空き家特例だけではありません。以下の特例は空き家特例と併用ができるので、利用条件を満たしているのであれば積極的に活用しましょう。
- マイホーム特例
- 小規模宅地等の特例
ただし、相続した不動産の売却時に相続税の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」とは併用できないため、どちらの特例を選択したほうが有利になるかを検討する必要があります。
それぞれの特例の内容について、詳しく見ていきましょう。
「マイホーム特例」と併用できる
マイホーム特例は、自身が住んでいた家を売却した場合に譲渡所得から3,000万円を控除できる制度です。
実家の売却時に空き家特例を利用した場合でも、自宅の売却時にマイホーム特例を併用できます。
マイホーム特例を受けるための主な要件は以下のとおりです。
- 住んでいるマイホームを売却すること
- 現在住んでいない場合は住まなくなった日から3年目の年末までに売却すること
- 売却した年を含め過去3年以内に3,000万円特別控除やマイホームの買換え特例などの適用を受けていないこと
- 売主と買主が親子や夫婦など特別な関係にないこと
- この特例を受けるために入居した家ではないこと
ただし、空き家特例とマイホーム特例を併用する場合の上限控除額は3,000万円です。2つの制度を合わせて6,000万円まで控除されるわけではない点に注意しましょう。
参照元:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
「小規模宅地等の特例」と併用できる
小規模宅地等の特例とは、被相続人が自宅として使用していた土地を相続した場合に330㎡までの土地の相続税評価額が80%減額される制度です。330㎡を超える部分は通常の相続税評価額となります。
たとえば相続した土地の面積が200㎡、相続税評価額が6,000万円だった場合、小規模宅地等の特例を利用すれば相続税評価額を以下のように減額できます。
相続税には「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の基礎控除があるので、ケースによっては相続税を納めずに済むでしょう。
ただし、空き家特例と併用するには以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人が1人で暮らしており、配偶者や同居している子や親族がいない宅地であること
- 3年間、借家暮らしをしている子や親族が宅地を相続すること
- 相続した宅地を相続税の申告期限まで保有すること
- 相続開始時に居住している家屋を過去に所有していないこと
小規模宅地等の特例と空き家特例を組み合わせれば、相続税、譲渡所得税がともにかからないというケースもあり得るため、3年間、持ち家を所有していなかった方が一人暮らしをしていた親の宅地を相続する場合は、適用要件を満たしているかどうかを確認してみることをおすすめします。
参照元:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
相続財産を譲渡した場合の相続税の「取得費加算の特例」とは併用できない
取得費加算の特例は、親が亡くなって相続した不動産を売却する際に納付済みの相続税額の一部を取得費に加算できる制度です。
取得費に加算できる相続税額は、以下の計算式で求められます。
たとえば、相続税額が1,000万円、売却した相続財産の相続税評価額が5,000万円、相続財産の合計額が1億円と仮定してシミュレーションしてみましょう。
このケースで取得費に加算できる相続税額は以下のとおりです。
「その人の相続税額×譲渡した財産の相続税評価額÷その人が相続した財産の合計額」の計算式より、
譲渡所得税を計算するにあたって、納付済みの相続税の一部を取得費に加えられれば大きな節税につながります。
取得費加算の特例を利用するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 相続や遺贈によって財産を取得した人が売却すること
- 財産を取得した人に相続税が課せられていること
- 相続開始日の翌日から3年10か月以内に相続財産を売却すること
しかし空き家特例と取得費加算の特例は併用できないため、利用する際はどちらかの特例を選択しなければなりません。空き家特例と取得費加算の特例を使用した際にどちらが有利となるかを、税理士や税務署の窓口にて相談し、慎重に検討して判断する必要があるでしょう。
参照元:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
空き家を確実に売却するなら専門の買取業者へ
お伝えしてきた通り、一定の要件を満たす空き家を期限内に売却するのであれば、「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」(通称「空き家特例」)によって譲渡所得から3,000万円が控除されます。
とはいえ、いざ空き家を売り出したからと言って、すぐに買手がつくとは限りません。
空き家は立地や建物の状態が悪いことが多く、自身の居住用として物件を探している一般の買手はわざわざ購入しようと思いにくいからです。
そこで、「空き家を確実に売却したい」「少しでも早く空き家を売却したい」という方は、専門の不動産買取業者に依頼して直接売却することをおすすめします。
というのも、不動産買取業者は買い取った物件にリフォーム等を施して商品化し、自社での運用や再販といった事業によって収益を得ることを目的としています。
なかでも、空き家など買手のつきにくい物件を専門に買い取っている不動産業者であれば、用途のない不動産を再生し活用するノウハウを豊富に持っているのです。
そのため、立地や建物の状態が悪い不動産であっても、活用方法を見出して適正価格で買い取れます。
買取業者自身が直接買主となるので、買取価格に売主様が納得できれば、1週間から1ヶ月程度で空き家を手放すことも可能です。
弊社「株式会社Alba Link(アルバリンク)」でも、全国を対象に空き家を積極的に買い取っております。
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まとめ
一人暮らしをしていた親が亡くなって相続した空き家を売却する際に「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」を利用すれば、譲渡所得から3,000万円を控除できるので大きな節税につながります。
ただし、適用を受けるには、相続した空き家に関する要件や売却期限に関する要件などを満たさなくてはなりません。空き家特例の利用を考えているのであれば、国税庁のホームページで公開されているチェックシートで自身が適用要件を満たしているかどうかを確認しましょう。
また、空き家特例は「マイホーム特例」「小規模宅地等の特例」との併用も可能なので、それぞれの利用条件を満たしている場合は積極的に活用することをおすすめします。
しかし、空き家を売却したいと考えても、建物の状態や立地条件によっては買い手が見つからないケースも珍しくありません。
空き家が売却できずに困っている、相続税を納めるために空き家をいますぐ売却したい方は、ぜひAlbaLink(アルバリンク)へご相談ください。弊社には買い取った物件を活用する豊富なノウハウがあるので、他社では買取が難しい空き家であっても高額買取が可能です。
査定も無料なので、いくらで買い取ってもらえるのかが知りたい場合にはお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。